「フォードvsフェラーリ」

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ジェームス・マンゴールド監督。業績不振にあえぐフォード社はモータースポーツ界で名をあげるフェラーリ社の買収に乗り出すが、失敗。フェラーリ社への雪辱に燃えるフォードは、自社で開発したマシンでル・マン制覇に挑む…という、実話をもとにした物語です。

題材が題材だけにいい音響といいスクリーンで見た方がいいだろうなという気がして、公開週末にドルビーシネマで観ましたが、何に驚いたって男性客の多さ!自分がモータースポーツにあまり執心したことがないというのもあって、熱いファンがやっぱりたくさんいるんだなー!と思いました。

すごく面白かったんですが、見ていて気がついたんですけど私って速い車が苦手なんだったんだていう…じゃあなんで見に来たんだよって話なんですけど。スピードにスリルを感じるよりも前に恐怖を感じてしまうんだね!なのであまりの臨場感に映画のかなりの部分めっちゃ歯を食いしばって見てたみたいで、終わったあと顎が疲れました。ル・マンの名前は知っていましたが、そして24時間走るというのも知っていましたが、あんなスピードで3分半のラップを刻み続けるの?正気の沙汰じゃねえ!と改めて彼らの超人ぶりに震撼しましたね。

GT40という車をフォードが開発していく過程をやるだろうと思ってたらそこを潔くすっ飛ばして、フォードvsフェラーリっていうタイトルだけどフェラーリが噛むのは物事の発端のところが主で、基本的にはフォード内部の権力闘争と、「事件は会議室で起きてるんじゃない!サーキットで起きてるんだ!」みたいな現場vs管理職がメインストリームで、またこの争いが、たぶん仕事をしている誰もが一度は思ったことがあるであろう「じゃあお前がやってみろよ!」を地で行く管理職の管理職ぶりに、どうやっても観客は主人公のキャロル・シェルビーとケン・マイルズの肩を持ってしまうっていう。真の敵はフォードというか、むしろフェラーリ側は潔さもあって好印象な描かれ方ですよね。

7000回転の究極の世界を見たシェルビーは、持病でその道を突然に絶たれるわけだけれど、自分と同じように車を見ることができて、自分と同じように車を走らせることができるマイルズに自分の何かを託していることは間違いなく、そして口には出さないまでもマイルズもそれをわかっているんだろうと思う。でもその中で「大人の論理」をシェルビーが汲んでしまうのも、結局のところこれはフォードに全権が握られた戦いであるからなんだろうな。彼はこの世界から離れられない。そしてマイルズも、7000回転の究極の世界から離れられない。

しかしシェルビーとマイルズのあの「仲良く喧嘩しな」はなんなんや…缶詰で殴ろうとしてパンに持ち替えるし…じゃれ合うな!マイルズの奥さんの高みの見物最高でしたね。っていうかマイルズの奥さん終始最高だった。普通なら愁嘆場になるところをマイルズを助手席に乗せてかっ飛ばして吐かせるって素晴らしいでしょ。レースに出るならしっかり稼いでこいっていうあの姿勢もよかったなー。そういえば息子ちゃんは「ワンダー 君は太陽」のオギーのお友達のコだったね。

リー・アイアコッカジョン・バーンサルが演じていて、そういえばうちにアイアコッカの書いた本あったな…と懐かしく思ったりしました。わりと伝説的な経営者ですよね。クリスチャン・ベールは毎回風貌が違うので素顔がわかんなくなりそうになりますが、今回の役はかなり人間味あふれる役で好きでした。最後の展開も予想はつくものの、そのあとマット・デイモン演じるシェルビーから漂う喪失の影に胸が苦しくなるし、このふたりでル・マンのトロフィーを掲げるところを見たかったなと思ってしまいます。