「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」

  • 浅草九劇 全席自由
  • 作 清水邦夫 演出 西森英行

清水邦夫さんの戯曲の中でももっとも有名なもののうちの一本。登場人物4人、上演時間1時間20分、一幕もの、という「場所を選ばず」な構成もあってか、累計上演回数が日本一と言われてますね。第三舞台の女性陣も男性陣が「朝日」やってる時に公演したりしてましたね(すぐ第三舞台を引き合いに出すオタク)。しかし!私は何と今回が初見なのでした~!初見をオールメールという変化球で入ってしまったハッハッハ。

有名な作品なのにあらすじをまったく知らずに見たので、むちゃくちゃ新鮮に楽しんでしまいました。そしてチェーホフの「かもめ」をはじめ演劇古典の引用がドカドカ出てくるので、一応一通りそのあたりの経験値を積んでおいてよかったなとも思いました。「かもめ」は有名な「私はかもめ。いいえそうじゃない。私は女優…」から始まる独白が、かなりこの劇構造の大きなサブテキストになっているので、知っていると倍楽しい感じがありますね。

最初のシーンで女優AとBが「オカマ野郎」と罵られる場面があるので、「女性を演じている」のではなくて、「性自認が女性である男性を演じている」という構造なのかな。せっかくのオールメールなので、そこはもうちょっと活かしてもよかったんじゃないかなって気がしました。

大高さんの演じる女優Aは長くこの楽屋に居続ける「死者」なんだけど、この長すぎる時間をもてあそぶって、大高さんにとっては「これをやらせて俺の右に出るものはない」って感じじゃないでしょうか?それじゃまるで人生つぶしじゃないか。朝日の台詞を思い出しますね。そして変わり身早くシェイクスピアから三好十郎まで演じ分けてみせる洒脱さ!このあたりはさすがに大高さんに一日の長ありといった感じでした。佐藤アツヒロくん、舞台で拝見するの久しぶり。大高さんと共に受けに回る場面も多いけど、ここぞというところで抜群のリアクションを見せて観客の空気を掴んでいくのお見事でした。

女優Cが「女優という仕事」について語るモノローグ、彼女が楽屋を出ていくときに漂う孤独の影、楽屋に残される「死者」たちの孤独と表裏一体になっていて、なるほど80分でこの濃密さ、やっぱりホンか!ホンなんだな!という気持ちを新たにした次第です。