「フリムンシスターズ」

コクーン芸術監督になった松尾スズキさんの新作ミュージカル?いや音楽劇といったほうがいいのかしら。大阪公演はオリックス劇場というコクーンに比べるとかなりの大箱。しかしありがたくも最前列で拝見させていただいたのです。最前とはいえ舞台ツラからは2メートル以上離れてるんですけどね。

しかし、こんなにめぐまれた席で見ていても、なんかいまいちぐっと舞台の圧を感じるような瞬間のないままラストを迎えてしまったという感じがあった。沖縄から身ひとつで出てきて、自分の芯を持たないまま、漫然とコンビニで働き、給料はもらえず、ときどき店長と寝て、それを店長の妻も察していて…という、主人公の置かれた環境の「ぬるい地獄」さ、主人公だけでなく松尾さんのよく言う「人間性をはぎ取られたところ」に置かれた登場人物がどんどん出てくるのも、松尾さんらしさは満開だと思うのだけど、しかしどうも切実さを感じることができなかった。

この、ちひろのような登場人物を舞台のうえで描くという点において松尾さんはまさにパイオニア的存在だったといっていいと思うんだけど、今そこに松尾さんの興味というか、切実さがあるのかな?という感じがしてしまった。それは秋山菜津子さんのみつ子とサダヲちゃんのヒデヨシの関係にしてもそう。「命、ギガ長ス」なんかは、そのピントの合いようがそら恐ろしいぐらいだったので、松尾さんももう少し先を書きたい欲があるのではないのかなあなんて思ったりしてしまった。

まあ、わたしが基本的にミュージカルを得意としていないってのもあるんだろうけど。あと舞台ツラで役者に何か食べさせて噴き出させて…っていうシーンは、いかに皆川さんの愛嬌をもってしても、このご時勢前方席の客を引かせる効果しかないと思う。ささいなことだけど。

長澤まさみちゃん、コンビニ幽霊というには輝きがすぎるきらいがありましたが(できればラストシーンのようなスタイルでもう1,2曲ぐらいあってもよかった)安心感のあるセンター。あとはオクイさんの仕事っぷりがやっぱりすばらしかったね。2役目であの弟がきたとき心の中で「待ってました!」って快哉をあげたもんね。皆川さんもとてもよかった。サダヲちゃんと秋山さんのコンビをたくさん見られたのもありがたかった。サダヲちゃん、ほんと舞台に彼が出ているときはそっちしか見られなくなるマジック健在すぎる。無事快復されてこの舞台の幕が上がってよかったです。そうそう、史上最短のカーテンコールもいい!あれは継続してもらっても一向にかまわない(笑)。