「月影花之丞大逆転」

コロナ禍でできるだけ密を避ける製作・作品をということでyellow新感線と銘を打った新作。上演時間も短く、出演者も最小限。新感線はもう長いこと、色んな意味でファットな作品作りに舵を切ってきたし、そうせざるを得ないような環境もあったりした中で、なんだかちょっと原点回帰ぽい雰囲気を感じてしまいますね。

東京公演期間中にライブビューイングがあったので、この先なにがあるかわからんし一応ここで見ておくか…とライビュ先、観劇あと、という珍しいパターン。いや、観るとわかってたらやっぱり実際の観劇を優先させたいって気持ちあるよね。いやな予感は当たるというのか、私の見る予定だった週末に緊急事態宣言再々発令、ギリギリ24日に駆け込みました。

ライブビューイングで見た時にも、あのオープニング映像で思わず声出して笑いそうになってしまって、いやマジで節操ない、国内外の名作傑作流行りもの、なんでもシャレのめし笑いのめしてネタにしまくる、NO!節操!それでこそ新感線!

月影花之丞率いる劇団に所属する、保険の高額契約をエサに釣られた男、共演者キラーと呼ばれ業界を干された女、そこに絡む訳ありの男…実はこの男は凄腕の殺し屋だった!その情報を掴んだインターポール極東支部は劇団に潜入捜査員を送り込むが…!ってそんなあらすじはもはやこの際どうでもいい。いやどうでもよくはないけど基本的にこのあらすじはやりたいことをやるためのお膳立てです。やりたいことはなにかというと「木野花演じる月影花之丞がでっかい声で言いたいことを言う」、そのための舞台装置です。

木野花さんの演出家としての行き過ぎエピソードは枚挙にいとまがないほどあって、もともとの「花の紅天狗」が生まれたのもその木野さんのキャラクターありきだったわけだけれど、御年70歳を超えて今なお意気軒高な行き過ぎた演劇愛を思う存分に浴びれる2時間という感じでした。すごすぎるよ。ときどき猛烈にグダグダになるところも含めてすごすぎるよ。

緊急事態宣言によって、私の観た時点では明日以降の舞台がどうなるかわからないという状況であったことと決して無関係ではないと思うけれど、月影先生の言葉のひとつひとつ、「あなたの怒りはわかります」「優れた役者が舞台に立てないなどあってはならない」「劇団をなめるな」「舞台がなければ作ればいい!」いやもう、刺さる刺さる。こんな芝居なのに、こんな芝居だからこそ、こんな芝居がちゃんと存在できる世界じゃないとだめじゃんね、と心の底から思いました。あとさ、演劇をなめるな、じゃなくて劇団をなめるな、っていうのがね、作家の想いを感じたりしてね、そこもすごくぐっときた。

古田新太阿部サダヲが全編にわたって芝居を引っ張ってくれるので、すごく安心感あったな。少人数芝居ならではのメリットとも言えるし、カナコさんたちの隙間をぐいぐい埋めていく力も沢山堪能できてよかった。カーテンコールの時とか、あれっ観ているときに感じてたよりもキャスト少ない、ってなったのはやっぱ劇団の力だなって思いました。

それにしても、古田とサダヲ、どっちも捨之介経験者だよね!ってことで用意されたあのアルプスの傭兵じいじのクライマックス、あれこそずっちーな!!!ですよ。あんなの喜ばないわけないじゃないの。いろんなものをネタにして、最後は自分たちの文字通り代表作をもパロるその精神や良し。あの名乗りが始まった瞬間の高揚は劇団と長く付き合ってきたものへのご褒美みたいなものだよね。最後にヤギがならんで2人と5匹のシルエットになるの、まあ笑ったし嬉しいしちょっと泣けるしでえらいことだった。

新感線が大きくなって、だからこそ用意される舞台は大きなものにならざるを得なくて、それはそれで進んできた道だからそれを否定はしないのだけど、でもこうして心底おバカでくだらなくて劇場出たらなんの話だったか忘れちゃうような、でも無駄に熱い演劇魂は確実に胸に残るような、そういう新感線の魂みたいな作品だったなと思います。月影先生の名セリフ、「舞台の上に過去はない、あるのは次の台詞だけ」。次の舞台を楽しみにしています!!