「外の道」イキウメ

  • シアタートラム C列9番
  • 作・演出 前川知大

イキウメ新作。本来は昨年同時期に予定されていた公演ですが、緊急事態宣言により全公演中止。しかし、「来年、同じメンバーでやります」といち早く打って出たこと覚えてますよ。この1年間で「金輪町」をめぐるあれこれをwebで展開したり、配信込みの公演を打ったり、イキウメ、ほんとプロデューサーが有能だなと思う。それもそのはず、だって中島隆裕さんだからーー!!!(贔屓を引き倒す)まさか再トライの今年、またもや緊急事態宣言下での上演になろうとは予測してなかったかもしれないけれど、あらゆるものをかいくぐってなんとか…いけそう?じゃない?いやはやよかったよかった。

椅子と机がならぶ空間にどことなく寄る辺ない風情で集まる男女。出入り口のドアはひとつ。その中のひとりが声をかける。二人はどうやら同級生らしい。これまでの来し方行く末をぽつぽつと喋るふたりだが、次第に「自分が経験したある不思議なできごと」を語りはじめる。

舞台装置は出ハケのためのドアがひとつしかない空間で、最初に全キャストが登場し、そこから最後までノンストップというのが、これは演じてる方もなかなかに過酷だぞ…と思いながら見ておりました。なかでも、今回は安井順平さんと池谷のぶえさんの「語り」によって構成されている(他の人物は、彼らの語りの中の登場人物)わけで、改めてこのおふたりの力量ハンパねえな…と感心しきり。

今まで信じていたもの、当然にそうなると思っていた秩序、それが少しずつ、少しずつ、ずれていく、それていく、こわれていく。どうして宅配便は正しい住所に届けなきゃいけない?物質は本当に固い?住民票に書いてあることは真実?いつも見ていた妻の顔は、本当にそんな顔だったのか…?続々と立てられる問いに足もとが揺らぐところにやってくる「真の闇」。ああ、こわい。どこからきて、どこへいくのか。

最前列だったんですが、2度目の「闇」のとき、足もとにフワッと「なにか」が押し寄せた感じがして(たぶんただの風)、マジでヒュッと息を呑んじゃったね…。劇場という、まあシアターゴアーにとっては揺りかごのような場所で、寄る辺ない場所に放り出されるこわさを体験してしまった感。しかし、ある種善光寺のお戒壇巡りのような感覚というか、寄る辺なさの向こうにあるものを感じさせるラストでもあったな。正直なところ個人的な好みからはちょっとはずれてるんだけど、劇場で味わう劇的体験としてのそれで十分満たされましたという感じ。逆に地方の大きめのハコでどうなるのかっていうのは気になるところでもある。

イキウメのキャスト陣、相変わらず盤石。そして安田・池谷両氏の語る力、声の力よ。暗闇に包まれていても観客を惹きつけて離さない。堪能させていただきました。