「パ・ラパパンパン」

藤本有紀さん脚本、松尾スズキさん演出。まずいの一番に言いたいこととしては、こういう試みをどんどんやっていってもらいたいってことです。小劇場界から出てきた人たちは、自身の劇団で作・演出を兼任してのし上がってきたひとが多いというのもあるけど、作と演出を分担することが少ない。あっても、過去の脚本や海外の作品を引っ張ってきて演出だけする、みたいなパターンが多い。でも、演出って経験を積み重ねることでうまさが増していく、できることが増えていく、って部分あるけど、脚本ってどんどん頭を「今」にしていかないとあっという間に観客に追い越されると思うんですよ。作・演出の兼任ほんとこだわる必要ない。もちろん、作家と演出家の信頼関係がないとできないから、一朝一夕でいい組合せが見つかるわけじゃないと思うけど、できるだけ「今」を書ける人に書いてもらう、そして舞台で仕上げるテクは思う存分発揮してもらう、というのはすごくいいトライアル。

書けない作家とその書けない作家に書かせたい編集者が、クリスマス・キャロルの世界を借りて「クリスマスに起こった事件の謎」を解いていく…という縦糸と、作家自身がかつて悪意なき悪意にさらされた、その枷を解いていくというのが物語の横糸。

松尾スズキさんと藤本有紀さんといえば、名作ドラマ「ちかえもん」をまず思い浮かべますが、あの精神がしっかり息づいてるなと感じました。当たり前だけど、物語の納め方がむちゃくちゃ達者。唸りましたね。第一幕、作家が一見傍若無人といってもいいほどに「クリスマス・キャロル」の世界に茶々を入れていくけれど、第二幕では作家自身がその物語の中に入って、むちゃくちゃに思えた謎もしっかり解決していく(それが得心できるトリックであるのがまた、すばらしい)んだから、筆の冴え~!ハンパない~!と驚嘆するしかない。

なかでも、あとで困った時のために生かしておいちゃおう、と言っていたスクルージの生存が、絶体絶命の作家を救い、まったく同じセリフを返すところ、しびれたなんてもんじゃなかった。何か困ったことが起こった時のために、生かしておいてくれたんだろ?さようなら、ファンによく似たお嬢さん…。藤本さんが「物語の中で生きる人」にどういう視線を持っているか、がこんなにも発揮された名場面ないとおもう。

誰かを傷つけるつもりじゃなくて、ただ、おもしろいからやった。誰でもよかった。そういう、悪意なき悪意に苦しめられる、なんで私なのか、と思い続ける作家の苦しさを、苦しさとして表出させない見せ方も、よかった。ところどころに差し挟まれたキレッキレのギャグ、役者陣を遊ばせて、でも物語のスピードは殺さない演出などは、松尾さんの手腕だよなあと唸る。蜷川芝居の大東くん、ちょう笑った。空の上から御大の灰皿飛んできてない?大丈夫?いやなんならちょっと、飛んできてほしいけどね。

あとは何と言っても役者陣の隙のなさ、この充実ぶりよ。小松和重さんと菅原永二さんの並び、私にとっては大御馳走だし、自ら積極的にゲラって、でも収拾つかない一歩手前で職人芸のように本筋に戻すマイラブ小松さんの本領発揮を見れて嬉しいったらなかった。あと、筒井真理子さん、つーか真理ちゃん、マジでぜんぜん変わらない、なんなのその美しさの秘訣は。オクイさんももちろんよかったし、自由な皆川さん大好きだし、小日向さんが輝いてるのなんか言わずもがなだし、はーあもう全員最高だったよ。

そして芯をとるお松と神木きゅんのすばらしさね。いやもうお松を見ていて、心底、国の宝やんか…とほれぼれしてしまったおれだよ。芝居のうまさ、声の強さ、硬軟自在の演技、あの皆川さんを前にして絶対に落ちない心臓、そして歌声。すべてがキラッキラに輝いてたし、その国宝級のお松の輝きに神木きゅんが負けてないから参っちゃう。舞台の上の居方みたいなものはもちろん他のキャストに一日の長があるけど、芝居勘のよさでここまで渡り合えちゃうのがまずすごいし、あと持てる武器が多い。伊達にこの世界でトップに居続けてない。

最後の歌とダンス、オンシアター自由劇場な方々を筆頭とした演奏も最高だったし、あのどセンで踊るお松の輝きたるや…!欲を言えば筒井さんにも踊ってほしかった、第三舞台ファンとしてはねー!しかしフルートで参加ってのもなにげにすごいな。

大阪は師走の公演で、街の空気と芝居がハネたあとの空気が絶妙にリンクして、なんとなく誰かにメリー・クリスマスの言葉を送りたくなる、そんな作品でした。堪能!