「トップガン マーヴェリック」感想その1~ネタバレなし編~


オリジナル、無印トップガンの公開が1986年だから、もう36年前になりますか。本当なら2020年夏の公開のはずだった。しかしそこに襲い掛かるコロナウイルスパンデミック、ありとあらゆる劇場が閉鎖になりブロックバスタームービーが軒並み公開延期か配信へ切り替えになり…。トップガンマーヴェリックも、当初2020年夏の予定が冬になり、翌2021年夏になり、さらに冬に再延期され、そしてまた再度2022年夏に延期…。この間に劇場公開に踏み切るか、それとも配信で製作費をペイさせるか、いろんな選択肢があったと思うけれど、トム・クルーズは劇場での公開のみを選び、しかも観客が映画館に安心して戻ってこれるようになるまで待った。

そもそも、オリジナルのトップガンというのは、私は直撃ど真ん中世代でもあって、いやマジで本当に売れていた。社会現象といって差し支えなかった。何しろこの映画を見に行かない(当時は)私が観に行ったほどなのである。そして映画の興行収入はもちろんだが、なによりサウンドトラックが売れに売れた。私と同世代であのトップガンアンセム、お馴染みのテーマ曲を耳にしたことがない人はいないのではないか。デンジャーゾーン、愛は吐息のように、mighty wings…。思えば、あの頃のブロックバスタームービーにはこうした「ヒット曲のMTV」みたいな側面が少なからずあった。フットルースしかり、ゴーストバスターズしかり。トップガントム・クルーズを一躍スターダムに押し上げ、海軍パイロットのファッションを流行らせ、街中どこでもあのサントラが流れているというような、そうしたアイコニックな映画であったことは間違いないし、もっと言えば「時代と寝た」映画だったから、今改めてオリジナルのトップガンを見た時に古さや受け入れられなさが先に立つひとも沢山いるだろうなとも思う。

柳の下の泥鰌は二匹どころか5匹6匹当たり前、というハリウッドにあって、しかしトップガンはここまで続編が作られてこなかった。あそこまで売れに売れた映画だから、もし続編が作られていたなら今頃「トップガンⅤ~新たなる旅立ち~」とかできてても全然おかしくない。しかしとむくる先輩はそれを良しとしなかったのである。逆にいうと、ここまで作らないでいて、今あえてトップガンの続編?と思った人も少なからずいたのではないだろうか。もはやオリジナルトップガンを劇場で見たことない人達が増えている今あえて、なぜ?

実は私はこの続編のニュースを聞いたときから完成を心待ちにしていたひとりであった。それはもちろんオリジナル直撃世代ということもあるし、なにより今のアップデートされたトム・クルーズがあの80年代ハリウッドムービーの煮凝りみたいなトップガンをどう生まれ変わらせるのか、というところにものすごく期待していたからでもある。

最近のトム・クルーズの主演映画を見ているひとには何をいまさらではあるが、とむくる先輩は映画の中における女性の描き方や関係性、主人公(自分)の押し出し方において、実に見事に紋切り型から脱却してるよな、と新作を見るたびに感心しているのです。ジャック・リーチャーのシリーズ(アウトロー、ネバーゴーバック)とか特にそう。MIのシリーズでも、もちろん超人イーサンを主軸に据えてはいるんだけど、シリーズ1作目2作目と比べると如実に変化してる。でもって、それは多分とむくる先輩が「何が観客に受け入れられるか」「または受け入れられないか」ということにむちゃくちゃ高いアンテナを立てているからじゃないかと思うんですよ。同時に、無敵の主人公ではありつつも、加齢とともに実に巧妙に「負け」を取り込んで見せてきている。それがあのトップガンでどうなるのか?という興味。

37年ぶりの新作、コロナ禍による2年の延期に加え、こうした期待値をもって初日の映画館に駆けつけたわたし。試写での感触などは上々の雰囲気だったので、すごく期待していたし、いやーでもぜんぜんアレだったらこれだけ待った分きちいな!?とかも思いつつ。1作目の音楽はどの程度残してくるんだろう、まさかあのアンセムを出し惜しみするとかあるのかな…と思っていたところに。

パラマウントのロゴが出た瞬間に鳴り響くトップガン・アンセムの鐘。
惜しみねえ~~~~!!!
ぜんぜん出し惜しみする気がねえ~~~~~!!!
そこから立て続けにあのフォントで説明される「トップガン」の成り立ち、その組織の名は\ドーン!/で出てくるタイトル、うわまじでオープニングからオールドファンころしてくるじゃん…と思ったところでかかるデンジャーゾーン。
ありがとうございます。
もうこれだけで5億点でございます。
しかしあの発艦シーンの演出・編集のすばらしさ。現時点で都合4回鑑賞したんだけど、4回とも「これが1時間続くんでもいいけどな」と思わせるかっこよさじゃないですか。ジョセフ・コシンスキー監督がオープニングの構成について「我々も皆さんと同じようにトップガンが大好きだ。信用してくれてよい」と伝えるため、とインタビューで語っていらっしゃるが、完全に奏功しているのよ監督!好き!

観終わった後、最高に面白かった、こんなに待ちに待った映画がこんなに最高に面白くて最高だ、これを劇場でかけることにこだわり続けてくれて本当にありがとうトム・クルーズ…!と大袈裟じゃなく祈る気持ちになったし、売れてくれ~~~!!客いっぱい入ってくれ~~~!!とも思ったし、また見たいなって思ったし、とにかく、映画を見る楽しみ、が結晶のように美しく輝いている時間だったんですよね。そんで、人生においてそういう瞬間って、そう何度も訪れるものじゃないんですよね。それはオリジナルトップガンを見た10代の頃にはわからなかったことでもあるんですよ。

映画の冒頭で、マッハ10の限界に挑んだトム・クルーズ…いや、マーヴェリックに、エド・ハリス演じるケイン少将がこう投げかける。戦闘機はいずれ君らを必要としなくなる。寝て食って排泄する、そして命令に違反するコスパの悪い人間はお払い箱になり、無人機の時代がやってくる、と。マーヴェリックはこう返す。だとしても、それは今日ではありません。

コロナ禍により、映画の世界にもストリーミング全盛といっていい時代がやってきた。雨後の筍のように乱立するサブスクに、毎週更新される新作の数々。劇場公開を予定していた数多の映画も、苦し紛れの配信と劇場同時公開だったり、配信オンリーに切り替えたり、劇場公開しても45日後には配信でリリースされる契約だったりとその両立に四苦八苦している。今までは興行収入が上がれば上がるほど契約によってボーナスが与えられたが、サブスクにおいてはそんな話は起こりっこない。映画という産業も、配信にとって代わられ、いずれ映画館そのものを必要としなくなる。

だとしても、それは今日ではありません。

2年間公開が延期されたことによって、タイミングが合ってしまったというか、この映画にはまるで滅びゆく巨大な映画産業をマーヴェリックの形を借りてまだ死なない、と語っているようなサブテキストを読みたくなってしまう力がある。もちろん、撮影された当時はまだコロナ禍前だったわけだから、これは現在の状況と観客の文法で勝手に読んでいるに過ぎないわけだけど。

2020年の夏、本来ならトップガンマーヴェリックが公開されるはずだった夏、トム・クルーズが制作映画会社も違えば自分が何ひとつかかわっていないクリストファー・ノーランの「TENET」を映画館に観に行く動画をわざわざアップして、映画館のすばらしさを讃えていたことを思い出す。配信を拒否したノーランへのエールだったんだろうなあとおもう。そこから2年、よくぞここまで、とおもう。どうして折れずにいられたのか、とおもう。その賭けに彼はこれ以上ないくらい完ぺきな形で勝った。映画は評判を呼び、映画館に観客が戻ってきた。スクリーンで観たい映画だよね、と皆が口々に讃える。興行収入は上昇を続け、トム・クルーズのキャリアハイを更新している。

どんな映画?と聞かれたら、何よりも、映画館で映画を見るって最高に面白いな!って思わせてくれる映画だよって私は言うと思う。この娯楽がいつかは時代の波に飲まれるとしても、でも、まだ、今日じゃない。今日はまだ、トップガンマーヴェリックが、映画館で観られる日なんだから。