「奇人たちの晩餐会」

いい演出家に手堅いキャスト揃ってるじゃん、こんなんやるの知らなかったな~と思っているところにツイッターで「面白かったよ!」とおすすめをいただき、すわ!とチケットを取りに走った私。結構いいお席で拝見できました。

フランスの戯曲で映画化もされてるそうですが未見です。パリに住む編集者のピエールは毎週水曜日に友人たちとディナーを楽しむが、このディナーには裏テーマがあった。それは「これぞと思うバカ」を同伴し、誰が一番の大バカ者を連れてきたかを裏で競い合うというものだった。今日こそは自分が優勝間違いなしと意気込むピエールだが、当日にギックリ腰になってしまう。ピエールの妻クリスティーヌは彼の悪趣味な集いをやめさせようとするが聞く耳を持たない。たまりかねて家を出るクリスティーヌ、そこにディナーに同伴するはずだったピエールイチ押しの「バカ」、フランソワがやってきて…という筋書き。

物語の出発点がかなりきわどいところにあるので、下手すると観客の心がどんどんピエールから離れて終わり…みたいになるところですが、このあたり実に巧妙な手綱さばきだったなーと思います。ピエールがとにかく出てくる全員に「悪趣味」「意地悪」と糾弾されることもそうだし、フランソワが絶妙に「かわいそうと思わせない」佇まいなのも奏功してたなーと思います。「悪い人じゃないけど…」と最後に「…」のつく感じ。いやマッチ棒でミニチュア建造物作る話、さすがに限界あるって…(笑)

中盤でクリスティーヌの元の交際相手、ルブランやピエールの愛人マルレーヌが加わるところから一気に物語が回転しだして、そのあとは一気呵成だったなー!ピエールにとってもフランソワにとっても味方なような、完全にそうでもないような、という立ち位置の人間が加わったことでやりとり全部が面白いという展開。さらにそこに税務署職員のシュヴァルが絡むわけですけど、このシュヴァルの呼び出しのすったもんだ、サッカーの試合をネタにしていて、マルセイユサポーターのシュヴァルが、リヨンサポーターのフランソワに「オーレマルセイユ!」と叫ばすところ、笑いました。バルサのファンにアラマドリー!って言わせるようなもんでしょ。そりゃ本気だなこいつってなりますよね。説得力!

ラストにはピエールが友人・愛人・妻、全員から突き放されるなか、あれほど「目から鼻に抜けない」タイプと見ていたフランソワの思いやりによって救われる…という、ベタといえばベタだけど、すがすがしく観られたな。人間力という点でピエールはフランソワにまったくかなわない、ということが劇中の人物にも観客にもよく伝わっている、ということがわかるラストだったと思います。

愛之助さんの無邪気でかわいいけどそれはそれとして空気読め~!みたいなキャラクター、よかったです。押しの強さが生きてた。ルブランの原田優一さん、細かいしぐさですごく印象に残る芝居だったと思う。好き。戸次さんとのコンビネーション含めてむちゃくちゃハマってたと思います。野口かおるさんの例によって登場からマッハ10ですが何か?みたいな炸裂やらずぶったくりを観られて大笑い。こうでなくちゃ!そうそう、坂田さんのシュヴァル、脱税絶対見抜くマンにそんなオチが…!となりつつ、今後のピエールへの追徴課税が心配になりました(笑)