「パンドラの鐘」

初演から23年ですってよ。こういう話題、この手の再演があるたびに繰り返してるのでいやもうわかったってば、という気もしつつ、23年て!ついこの間やったやん!とやっぱり言いたくなるやつ。

23年前の作品だけど、当時の蜷川版野田版ともに今でも鮮明に記憶に残っているところが多く、戯曲もかなりの部分頭に入っているので、物語に没頭して観る、というよりは答え合わせというか、なるほどこういう処理なのね、とか、こういうトーンで台詞を言わせるのね、みたいな確認作業めいた部分も自分の中には正直あったかな。

しかし、そういう心情で観ていても、最後の最後には、つまり、ミズヲが己の出自を語り、ヒメ女が「それを見ないですむ方法が、ひとつある、ミズヲ」と語り始めるところからは、どうやってもこの物語に持っていかれてしまうな、というのも実感しました。真の傑作のなせる業ですね。

この戯曲を書いたときだったか、野田さんがデヴィッド・ルヴォーに、原爆をテーマとして取り上げることと自分の出自(長崎出身)は関係ないと思う、と話をしたら、ルヴォーに、そんなことはない、絶対に関係ある、イギリスに生まれた自分は原爆をテーマに戯曲を書こうなんて思いつきもしない、と反論されたエピソードがあったと思うのだけど、ほんと、こればっかりはルヴォーの言う通りだと思いますね。

杉原さんは「鐘」に「道成寺」の色を強く持たせていて、紅白の幔幕や綱、そして最後には銀のウロコに見立てた衣装のヒメが鐘の上に現れるところなぞは杉原さんならではの見せ方だったなあと思います。化けて出てこーい!の台詞からしても、その解釈は戯曲の意図を外してるわけではないんだけど、しかし個人的には「すいません私とは解釈違いです!」と言いたくなってしまう部分もあった。化けて出てこないからこその「化けて出てこーい!」を愛しているんですよねわたし。あれこそ野田戯曲の「切なさ」の極まったパンチラインだと思うので。

あと収穫だなと思ったのは成田凌さんだなあ。むちゃくちゃいいですね。いいっていうか、すごくいい声してる。最初の台詞で「うおっ」と思ったものな~。なんていうか、野田さんが好みそうな系譜の声なんですよね、奇妙な明るさのある。初舞台と聞いて驚いたよ。ご本家から声かかってもびっくりしないぞ。あと前田敦子さん、今まで見た中ではベスト級によかった。コケティッシュさとクールさが共存してて魅力的でした。玉置さんのハンニバルもすごく印象に残る役作り。そしてむちゃくちゃ台詞が聞き取りやすい…ほんとありがとうございます…。

今回縁あって初めてこの戯曲に出会った人は、23年前に私たちがコクーンやパブリックシアターで熱狂したような感動と興奮を味わっているのかなあと思うと、こうして傑作戯曲がいろんな人の手によって甦るのは意味のあることだなと改めて思いました。