「八月納涼歌舞伎 第二部」

安政奇聞佃夜嵐」。初めて見る演目です。幸四郎さんの青木貞次郎に勘九郎さんの神谷玄蔵という配役…の筈でしたが、こちらもコロナの影響で幸四郎さんの代役になんと!猿之助さんが立たれるということに。この代役は結果的に私の観た21日と、前日20日の2回のみということになり、ある意味貴重なものを観たといってもいいかも。

佃島の人足寄場に罪人として追放されている青木と神谷は、さらなる悪事の露見をおそれて島抜けを決行するが、実は青木が長年探している親の仇というのは実は神谷だった…という筋書き。

猿之助さん勘九郎さんの、いかにも世慣れたワルぶりを全編にわたって堪能でき、かつ島抜けの場面ではなんともユーモラスなドタバタ風もあり、クライマックスでは大立ち回りありとものすごくファンにとってありがたみのある演目でしたね。単純に見ていて楽しいやつ。私は勘九郎さんは絵にかいたような好青年よりも、こうしたあくどい役の方がツボなので、いやー無事に観られてよかった、ありがとうごぜえます…と拝む気持ち。

中1日で主役の代役を務める猿之助さん、2列目のどセンで見ていましたがプロンプまったく必要としてなかったですね。台詞に詰まるような場面もほぼなかったのでは。しかし、台詞もそうだが、最後のあの手数の多い立ち回りをビシッと決めてるのがおそろしすぎた。単に神谷とやり合うだけならともかく、捕手が入って三つ巴の立ち回りなので、相当複雑だろうと思うけど、本役としか思えない完成度。

これも、幸四郎さんの青木だと結構温度感の違う感じになっていただろうなというか、もっとエモに寄っただろうという気がしましたね、特に義兵衛、おさよとの場面とか。幸四郎さんって、独特のエモさがある人で、そのエモを媒介にしてパワーを生み出すところがあるけど、猿之助さんはまず爆発的なパワーがあって、そのパワーの強大さにエモさを感じてしまうというような、大きな芝居をするときでも違う方法論のあるおふたりという気がします。そういう意味でも幸四郎さんの青木も観てみたかったなぁ~。

おさよの米吉さん、義兵衛の彌十郎さんともによかった。三つ巴の立ち回りのあと青木と神谷がともに捕らえられて縄につき、その状態で悪態つきながら花道をはけていくっていうのも斬新。青木に仇…討たせねえんだ!っていう。笛吹川の雪の中での渡し船っていうのもすごく風情のある場面で、印象に残りました。

浮世風呂」。猿之助さんと團子くんの舞踊、のはずでしたがこちらも代役となり、笑野さんのなめくじと猿之助さんの三助。猿之助さん働きすぎィ!しかし、なめくじと三助の色模様って、マジで歌舞伎自由だな…って感を新たにします。猿之助さんらしい軽快で楽しい踊りで、愛嬌が活きるよなあ~と思いながら見ていました。