「ツダマンの世界」

松尾スズキ×コクーン新作、そしてセンターに阿部サダヲ。冬の京都まで出かけてきましたよっと。

サダヲちゃんを芯に据えると、どうしてもあの破壊力で周囲を巻き込んでいくパワーを期待しちゃうところがありますが、今回はツダマンという芯よりも、その周囲の女性が際立った作品だったし、それを意図されてるなって感じでしたね。

なにしろ、江口のりこさん演じる津田家の女中さんの名前がオシダホキなのである。「悪霊」のホキと同じ名前。そう思うと、今作のラストシーンも、あの「成立してますのん、下女的にはこの恋」って台詞が蘇ってくるようではないですか。悪霊も男の鍔競り合いを描いたようでいて、最後は女が一枚も二枚も上手をいくって印象だけど、その点も今作と似通っているふうではある。

あと、今までの松尾さんならではの、小さいけれど、でも確実にこっちを削ってくる「日常のえぐみ」みたいなものにフォーカスを当てるというよりも、なんかもっと大きな、運命論的な物語の流れがあったのが面白かったな。ちょっと歌舞伎の世話物っぽさもあるなと思ったり。そういうのって、歌舞伎云々というよりも、つきつめれば古典の流れなんですよね。松尾さんがある種古典のベクトルに向かい始めたきざしかと思うと、貴重なものを観たような。

文学賞をめぐっての鞘当て、この「評価されたい」というものへの執着って、あまりそうは見えない松尾さんであっても身に覚えのあるところなんでしょうね。

役名が同じというのもあるけど、江口のりこさんのオシダホキで「悪霊」って未来もこれあるかもしれんな~!と思うほど、むちゃくちゃにハマってたし、ぐいぐい舞台を引っ張ってた感があります。吉田羊さんの凛としたところと、流される寄る辺なさが同居したキャラクターもよかった。そして村杉&皆川の安定感よ!サダヲちゃんは攻めても受けにまわっても実に輝くし、いい布陣だったなと思います。