「髑髏城の七人 season鳥」


しょっぱなから遠慮会釈なしにネタばれるよ!!!

阿部サダヲを捨之介に据えた「season鳥」。天魔王にはワカドクロでも同役だった森山未來、蘭兵衛も同じく早乙女太一。この三役だけの舞台経験数でいえば、花鳥風の中では鳥がダントツなのではないでしょうか。サダヲは本来の捨のキャラクターのニンではないですが、そこは捨をより「忍び」の世界に近いものとして描くという構想、かつ歌と踊りをばんばん入れます!という趣向が打ち出されてます。

見終わった後の私の心の第一声が「あーー満足した!新感線を見たって感じ!!!」というものでした。なんでしょうね。満たされました。ものすごくツッコミどころも多いんですけど、満たされ感のほうが上回った。なんなんだろう。歌?歌なのかな。個人的に劇中に歌が入るのそれほど歓迎している人間じゃないので不思議なんですけど、でもいっぱつめの歌がはいったときの「こ、これやー!」感がすごかったのも事実。劇中歌がまたすごくいいところでかかるんだ!そうだった…このいろいろ取り交ぜてとりあえず全部鍋の中に入れて煮る!みたいな姿勢!これが新感線!踊りはもっと踊ってもいいと思ったけど。もっと踊ってもいいと思ったけど(2回言った)だってーー未來がいるんだからさーーー!!

構成としては歌と踊りを入れてでも上演時間は3時間半に収めているってことで、わりとばっつんばっつん切ってます。無界屋に沙霧を連れて行くための流れがむちゃくちゃショートカットされてますし、花の時にあった沙霧が目の前で祖父と父を殺されるってのもカットされてるし(ほんとカットになってよかった、あれマジ意味わからんと思っていた)、天魔王が捨に夢見酒飲ませるところもばっさりいっていた。しかしそれ以上に今回の「鳥」は今までの髑髏城と大きく方向転換をした一点がある。それは「天魔王と捨之介を対の存在として描かない」という点です。ご存知の通り、この役はもともと一人二役で演じられていたので、そもそも役柄からしても「天が信長、地が捨、人が天魔王」というトライアングルだったわけです。天が抜ければ残る二角は捨と天魔王。このふたりがフューチャーされてしかるべき、なんですが、蘭兵衛という役が持つポテンシャルというか、設定もりもりなところに、キャストバランス的に蘭の役がどんどん膨らんでいって、結果「えっと誰と誰でトライアングルなんでしたっけ」みたいな感じになっていた。で、じゃあ今回は誰と誰が対なのか?というと、それは蘭と天魔王なんですよ。これ劇中のかなり核心部分のネタバレですが、今まで「光秀をそそのかしたのも実はお前」という設定はずーーっと残っていたんだけど、今回もしかしたら初めてといってもいいぐらい、そこに至る心中が描かれているわけです。なぜ、天魔王は信長を陥れることを考えたのか。これだけ尽くしても、天は自分のことを歯牙にもかけない。寵愛を一心に受けるものへの嫉妬。おれの理想とする信長はこんな人物ではない。理想でないなら滅ぼしてしまわねばならない…

じゃあ捨之介はなんなのか、というと文字通り地を這うものなんですね。その三人よりも、もっと地面に近い、低い所にいる。おそらく天魔王は捨の存在をもはや歯牙にもかけていない。「てめえが雑魚だと思ってる連中」のひとりに、捨も入っているってことです。そして捨は捨で天魔王に因縁がある。ここも大きな転換点のひとつですが、捨はぜんぜん「すべて流して捨之介」じゃないのよ。だって最初っからバリバリ天魔王に意趣返しする気満々なんですもん。あのね、正直捨と本能寺にまつわる書き込みは、ちょっとさすがに安易がすぎるというか、もうちょっとなんかなかったのかよーと思わないでもない。だって忍びのものならそこはもう何をもってしてもお主大事でないとだめなのでは!?ってなりますやん。間に合わなかった事情にはもっとパーソナルな、だからこそ後悔が大きいもの(ダークナイトのレイチェルかデントかみたいな、ああいう葛藤)が欲しい気がしました。

とツッコミどころは結構あるんですが、それでもこの転換点はうまく作用していたような気がします。構図としてもしっくりきましたし、なによりそれに説得力を持たせるサダヲの力量!そして対として描いて絵になる未來と太一のポテンシャル!

でもって、私が一番「満足した」理由はおそらく、笑いです。笑いがちゃんと作用してる。すごいどシリアスなシーンでもくすぐりを入れるその精神。笑って、それが次の興奮へのキックスターターの役割を果たしている。こ、これだよ〜〜〜〜〜!!!!いやーもうヒイヒイ笑いました。サダヲをはじめ、成志さん、転球さん、そして未來が貪欲に笑いを取りに行くの、ほんと感謝しかない。特にサダヲと成志さんのすべり知らず王ぶりったら!

演出としてはね、いちばん言いたいのは「セット…変えてほしい〜〜〜!!」ってことでしょうか…百人斬りをステージ移動しながら見せるのはよかった(っていうか花の百人斬りは間口狭すぎ問題)し、あと「てめえが雑魚だと思ってる連中の力…」の台詞のあとで5人が駆けていくシーン、セット裏にどたどた去るんじゃなくてステージを走るようにしてたのもよい変更。とはいえ、主要なセットがそのままつーかマイナーチェンジしかしてないので、これ4シーズン全部この風景だったらさすがに飽きるよって気がしちゃうんですけども。

いや、しかし、阿部サダヲのうまさよ。おそろしい。もはやおそろしい。知ってたけど観るたび思い知りますね。瞬発力つーか、爆発力つーか、あのタイトルバックどーん!!のところ、なんの脈略もなくうおおー!!!って心が震えますもん。こ、これだよ〜〜〜!(こればっか)ものすごくやることがたくさんあって、しかも殺陣も逆手で納刀も難しいし、まだちょっといっぱいいっぱいかなーと思うものの、それは回数を重ねて全部が体に入ってくればさらに威力を増すだろうということは想像に難くない。あの最終対決のところもね、理屈でいえば「ん?」みたいな部分もあるんだけど、なにしろ「地を這ってからが本番だ!」っていうサダヲがかっこよすぎて、胸熱すぎて、完全に「こまけぇこたぁいいんだよ!」状態。そして笑いという笑いを外さない天性の勘…ほんとうにありがとう…。あの惚けたフリしてるところとか、「これ洋画でよくあるモブがなめてかかったおっさんがめっちゃ強いパターンやーん!」って思って楽しかったです。ほんと、センターに立つために生まれてきたような役者だよね。格が違います。

そして成志さんの贋鉄斎なー!たぶん、すでに舞台をご覧になった方なら頷いていただけるんじゃないかと思うんだけど、チケット代をその分上げてもいいから成志さんをタクシーで帰らせてあげて…っていう(笑)いやもうね、あの雷様見た瞬間に思いましたよ。「これは…回るな」と。回ったよね。そりゃ回るよね。全編にわたって体を張ったお仕事にもうひれ伏します。本当笑いました。っていうかいのうえさんは成志さんを不死身と思っている節がある(笑)今回の贋鉄斎が捨の依頼を素直に聞かないのも新しいよね。より滲み出るマッドサイエンティスト感。

未來くんの天魔王、英単語を混ぜ込んでいくスタイルでこれは笑いに振ってるのかどうなんだろう!?と最初はとまどったんですが、ジパングわからないシーンで爆笑しましたしそのあとは遠慮なく笑わせていただいておりました。だってどんだけオモシロに振っても、一瞬後にはどちゃくそカッコいい芝居に戻っているわけで、とにかく役者から出てくる圧がすごい。カーテンコールのとき、その無言の圧にのまれまくってもう、かゆい!かっこよすぎて首がかゆい!て謎現象にもだもだしたし、なんなら私たぶん髑髏党に入っちゃうんじゃないかと思うもの。むしろ入りたいもの。あんなカーテンみたいな衣装であの動き、あの立ち回り、そしてマント!もう!ずるい!赤い衣装で太一くんと並んだ時の聖と邪な感じもよかったなー。あの二人が対になることで太一くんの中性的な魅力がより際立っていたように思いました。太一くんも「蘭丸」に戻ってからの方がより炸裂していたような気がする。立ち回りの華麗さはもはや並ぶものなしだしね!

兵庫の転球さんの役どころも実はちょっと変更してますよね。これは小路くんとの対比もあるけど、いい転換になってるんじゃないでしょうか。あとやっぱうまい。場数だなーと思わされるのはこういうところですね。個人的に私が髑髏城で一番すきな台詞をぐっと納得のいくトーンで聴けてうれしかったです(またここでかかる滝さんの歌がいい!)。善さんの狸穴もさすが(この役基本的にうまいひとしかもってこないよねえ)、のんしゃらんとした味がすごく活きてました。最後結構大事なところで秀吉と家康を言い間違えておられたので若干私が焦りましたが(なぜお前が)。粟根さんの渡京…算盤コロ助くんふたたび!そしてあの立ち回り復活!ありがとうございます!!!あのあとで起こった拍手は「同志」感すごかったです。またつまらぬものを数えてしまった…が聞けてほんと腰が浮きかけました。あと、松雪さんの極楽も葉月ちゃんの沙霧も文句ないんだけど、やっぱ蘭が立って蘭と極楽を書き込んだことで沙霧が役としてちょっと沈む形になるのはどうにかなんないのかなーと思うところではあります。

主要キャラの関係性を書き換えた中では、なんというか原石として磨いてみたいというか、この線でいったら違う鉱脈がみつかりそう!な気配のする改変で、できればもっとじっくり時間をかけて書いてみてほしかったなーというところはありましたが、とはいえ何度も言うようですが満足度は非常に高かったです。笑えて泣けてカッコいい。トゥーマッチでトゥーファット。新感線を見た!!!という気持ちで満たされまくった夜でした!