
松竹ブロードウェイシネマとかをはじめとして近年拡大しつつある、ブロードウェイミュージカルのヒット作を映画館で!というやつ、沖縄だとさすがになかなか見られる機会がなく、あまり情報を追ってなかったのですが、Xでお友達がおすすめしているのを見て、ダメ元で劇場情報見てみたらやってる!!!桜坂劇場で!!!ありがた山すぐる!!!というわけで足を運んできました。題材といい舞台としての見せ方といい、むちゃくちゃツボで、もう冒頭10分くらいで「おいおいおい、こんなん好きに決まっとるやんけェ!」って心のなかで大喝采でした。大当たりにもほどがある。おすすめしてくださったお友達に感謝感謝です。
「メリリー・ウィー・ロール・アロング」は1981年初演のブロードウェイ・ミュージカルで、楽曲を手掛けたのはあのスティーヴン・ソンドハイム。今回上映されるのは、2023-2024年シーズンにブロードウェイで上演されたマリア・フリードマン演出版で、2024年のトニー賞でミュージカル・リバイバル作品賞を受賞しています。
なんといってもこの作品の一番の眼目は、登場人物たちの物語を現在から過去へ逆再生していくこと。いまやハリウッドの人気プロデューサーとなったフランクは、成功の裏で自己の表現から遠ざかり、お手盛りの娯楽作品を渡り歩く現状にすっかり嫌気がさしている。不倫のうえに結婚したミュージカルスターである妻との生活はすっかり冷え切り、若い女優に手を出すなど私生活も荒れる一方。そんなフランクを「すっかり変わってしまった」と糾弾する友人のメアリーとも関係が断たれそうになる中、かつての仲間である劇作家チャーリーの成功に心穏やかではいられない。どこで間違った?いつ間違った?この3人ならなんでもできる、そう思えたあの瞬間に戻れるのなら…?ここから、彼らの過去を時間を遡る形で描き出していきます。
冒頭に、「選択を常に間違った」という歌詞があるんだけど、いろんな場面を遡って見ていくと、これは何もフランクだけではなく、彼ら皆が「どこかで間違えた」ことがあるのがよくわかる。たとえばメアリーは妻との離婚で落ち込むフランクに「愛してる」と口走ったあの瞬間だとか(あそこで茶化さずに愛を伝えていたら?)、傷心のフランクが作品に没頭しようとするのを享楽的なクルーズツアーに送り出してしまうチャーリーもそうだし、ガッシーは危険だと忠告されたにも関わらず、彼女とフランクを二人きりにしてしまうベスもそう。もちろん、新しい世界の「成功」に目がくらみ、誤った選択をし続けたフランクしかり、運命を変えるポイントは誰しもにあった。
物語のすべての始まりであるルーフトップの場面が最後にくるんだけど、ここのフランクとチャーリーのやりとり、作詞家と作曲家、というキャラクターも相まって「ロケットマン」のエルトン・ジョンとバーニー・トーピンを重ねちゃったり。あの映画にもふたりでルーフトップで語るシーンあったよな…青春の舞台になりがちなルーフトップ…。
冒頭から、どんどん「キラキラしたあの頃」に戻っていく構成、たしかに切ないんだけど、でも正直なことを言えば、私はそこまで切なさに浸ったわけではなかった。たしかに「もう戻れないあの頃」を振り返るものではあるけれど、だって彼ら、まだこの先があるじゃん、と思えたところがある。だってまだ50歳にもならないでしょ?30代40代なんて、ロックバンドなら一度は活動休止か解散かしてる頃合いよ。「俺の人生、これでぜんぶなのか」って誰しもが思い、何かをやらなきゃと思っちゃうタイミングよ。それに、成功して生活に不安がないからこそ思えることだってあるわけでね。あそこで魂を売らず困窮した生活が続いてもなお心が折れずにいたかどうかって、そんなの誰にもわかんない。少なくとも、彼ら3人はまだ不可逆じゃない。この作品が最後に「希望だけがあったあの頃」を見せて終わるのは、ただ切なさを増幅させるだけではなくて、そこにもう一度戻れるってことの暗示でもあるんじゃないかって気がした。フランクを演じたジョナサン・グロフの、あの少年性すら感じる目の輝きがそう思わせてくれたっていうのもある。
作中で印象に残ったのはなんといってもダニエル・ラドクリフ演じるチャーリーがフランクに不満を叩きつける「Franklin Shepard, INC」の大迫力!いやー思わず終わった後拍手しちゃった(3人しかいない映画館だったけど)。あとパーティでGood Thing Goingを歌う場面も、1回目のフランクとチャーリーの間にあるズレを言外に匂わせる切なさと比べて、アンコールを求められたあとの客の「俗物ぶり」のカルカチュアライズした見せ方も実に演劇的でよかった。ジョナサン・グロフの人たらしぶりと、それでもその底にピュアネスを感じてしまうキャラクターも素晴らしかったね。
映像作品としてかなり意識してクローズアップを多用していて、それはそれで各々の表情も追えてよかったのだけど、舞台のオタクとしてはやっぱりもう少し引きで観たかったなと思う部分もありつつ、まあでもそれは舞台で観られるからネ!と言われたらそうですね!としか言えないんだけどね!
ところで、これをあのリチャード・リンクレイターが20年かけて映画化しようとしていると小耳にはさみまして…リンクレイターさん!またしても「BOYHOOD」みたいなことを…!しかも20年て前よりスパン長なっとる!いや楽しみです。フランクがポール・メスカル、チャーリーがベン・プラット、メアリーがビーニー・フェルドスタインて、キャストも盤石すぎるじゃないですか。ただ…公開まで…遠い!それまで生き抜こう!頑張って!
