ネタバレなし感想はこちらに書いておりますが、もちろんそれだけで終わるワケないッショ!ということでここから先はネタバレしかない修羅の道です!お覚悟!
- いきなりファーストシーンから仮名手本忠臣蔵の五段目山崎街道の場、とくれば斧定九郎ですよねということで黒羽二重で登場のじゅんさん。松本公演では元気に走り回っておられましたが、松本の千穐楽でお怪我なさったらしいと小耳に挟んではいたものの、大阪公演まさかの車いすでの御登場。最初にご自身の口から経緯の説明があり、「熊と戦って負傷した」テイで車いすで立ち回りをやるというウルトラC。車いすは黒衣が操っていてこの場面の歌舞伎パロのテイストとマッチしたの奇跡的すぎる。ご本人は「上半身は元気です!」と仰っており、実際むちゃくちゃ元気だった。いやさあ、じゅんさんは30周年興行だった「鋼鉄番長」を降板せざるを得なくなった過去があるじゃないですか。しかも今作は「全員が揃う」ってことに意味がある公演でもあるわけで、どうにか舞台に立ち続けられる方法はないのかっていうのをこの短い間で考えてくれたんだなと思うと感謝しかない。
- 熊との決闘の末、崖から落ちる荒蔵…となるわけだが、幕間に後ろの席の客が「川に落ちたってことはさあ、生きてるってことだよね」と話していて頷くしかないやつ
- じゅんさんも久しぶりの新感線なわけだけど、この人の持つ理不尽さってある意味新感線のソウルな気がしちゃう。古田や聖子さんらとはまた違う意味で新感線の象徴。「象徴」と書いて「無茶」「無理矢理」みたいなルビ振りたい。二幕で現れる荒蔵と熊五郎さあ、もう絶対こうなるってわかってるのにあんなに「待ってました!」って気にさせるのすごない!?
- ネタバレなし感想でも書いたけど、今回女性陣のシスターフッドも見どころというか、「女は舞台に立てない」という抑圧への新感線なりのアンサーみたいなものすら感じてしまった。それの結晶が美少女博徒なんじゃないかとすら思う。もう絶対怒られるやつ!数多の子供の夢の象徴に「背中に緋牡丹」じゃないのよ!でも最高だった。羽野ぴゃと聖子さんのツーショット、両脇にカナコよし子のコンビが控えるこの構図。冗談抜きで初日、ここで泣いたおれだよ。怒られる!怒られるよ!と思いながら、この4人が今まで支えてきたものの大きさを感じないではいられなかったよ。五人の出が白波五人男のパロディになっているのもとてもいい。いやホント、このシーンだけで16000円何回でも払えます。私にとってそれぐらいの山場。
- それを受けての陣羽織仮面でまた笑いしぬやつ。これよね~~、このオモシロとカッコよさがブレンドされてあと一歩踏み外すとダサいになりそうなところを笑いの速度で走り抜けるのが新感線よね、それを太一くんが実現してるのマジで尊い。
- さとしさんは今回、役柄の上では遠山金四郎で一座を巡るあれこれを見守りつつの役柄なんだけど、もはや押しも押されもせぬミュージカルスター(あえて)なのに、そして役柄も遠山金四郎なのに、このメンツの中に入るとあふれ出てくる抜群の後輩力(ぢから)がすごい。どこをどうやっても二の線にしかならないところを三の線で見せちゃう愛されぶり、ほんとなんなんでしょ。右近さんとの怪人パロ、初見のとき腹筋しにました。もう私の前で小半時とか一生言わないでほしい!いや言ってほしい!
- これはパンフねたですけど、向井くんの役名の「うぬめ」がどうしても言えず、最終的に「な行を言えばなんとかなる」って力業で解決しようとしてるの息止まるぐらい笑いました。
- あれ、これ持ちネタですよね?っていうぐらい違和感のない古田のマツケンサンバもよかった。結構満を持しての登場なので、どう来るのかなと思ったら初手から全開だった。しかも両脇が聖子さんと羽野ぴゃなので古参はそれだけで昇天できるやつ。あまりにも黄金律。
- にしても、羽野晶紀と高田聖子という傑出した女優ふたりが新感線の初期メンであるっていう、これが本当に本当に得難い奇跡だったんだなって改めて思ったなあ。芝居がしたくてもできない、諦めざるを得ない、上からの圧力に負けそうになる一座にお破が「そんなに簡単に諦められるのか」っていうけど、そこで「諦められるわけないだろ!」って返す羽野ぴゃの芝居が本当にいいんだよ!聖子さんの持つエモと羽野ぴゃの持つエモって種類は違うのにどっちもむちゃくちゃ胸に届く。今回、主役のお破のパワーにまず呼応するのが女性陣っていうのもあって、この両翼のすばらしさがいつにも増して輝いている気がして嬉しいよあたしゃ
- そういえば中谷さとみさん、このところぐいぐい化けてきてる感があるというか、今までと違うニュアンスが醸せる役者さんになってる気がした。川原さんとの大人なコンビも絵になってたよね。あのふたりが最後「やれやれ」って感じで一緒にいるの、大変によい。
- 小池栄子さんはマジで最初の最初から最後の最後まで物語を転がし続けないといけない役で、ど、どんだけ大変なことさせとるんじゃー!感すごかった。でも栄子はさすがおれたちの栄子、期待を裏切りませんでしたね。バカを大真面目にできる稀有なお方だよ本当に。
- これ、芝居の構図としてもさ、お破がやってきた闇川島から、最後にはお破と、そして天外と夜三郎(今書いてて思ったけど『よさぶろう』っていうと「切られ与三」思い出すな)が離れることになるって構図なのも、客演の3人がここを去っていくって構図にしたのが心憎すぎるんですよねえ
- にしても、今回は文字通り早乙女太一の全部盛りだったね。女形、面白コント、そして川原さんとの存分すぎる立ち回り!!もう心の中で一番うまい人と一番うまい人キターーーーってなってたし、これを実現する新感線がえらい。えらすぎる。
- 客演といえば木野花先生もなんだけど、もう初日拝見したとき心の中で「どんだけ出るねん!」ってツッこんじゃいましたわ。最終的ににっちもさっちもいかなくなったら木野花による木野花力で物事を前進させていくの、さすがに頼り過ぎではという思いと、いやでもこれ通常ルートでやってたら(上演時間が)5時間じゃきかん…という思いが交錯しましたが、ま、チャンピオンまつりだしね!いいんじゃない!
- 物語の最終盤、仮名手本忠臣蔵の展開と「闇かぶき」の打つ興行が一体化していくところは、純粋に物語の展開としても好きだし、あのコロナ禍の時代を経てそれでもなお芝居を打つ、っていう、あのときを乗り越えた思いみたいなのも感じてしまったな。劇場がだめなら外でやってやる、芝居は決してなくならないんだっていうような熱さがあった
- それでさ、その怒涛の盛り上がりの末にくるのがあれじゃん。吉良上野介の七人じゃん。逆木さんが名乗った瞬間に「これ、これは、髑髏城の初演の七人では…?」って気がついて、もうその瞬間の鳥肌ったらなかった。古参殺すにゃ刃物はいらぬ、初演七人の逆光があればよい。そこにあのテーマソング…!いやもうドクロイヤーこれでいいです。これで完結です。いやでも、あのときのメンバーのみんなが元気でこうして舞台に立っているって、マジで奇跡だよ!!
45周年記念興行が、いかにもチャンピオンまつり!いかにもネタもの!みたいな感じじゃなく、わりと骨太な物語できたのは、いろいろあってそれでもなお舞台に立つってことがどういうことなのかを作家が書き留めておきたかったからかもしれないなと思いました。まもなく東京公演の幕が開きますね。これを新橋演舞場でやるっていうのがまた、夢がある。いやもう夢しかない。小劇場から、扇町ミュージアムスクエアから、オレンジルームから、シアタートップスからはじまった闇かぶきならぬいのうえ歌舞伎はここまできた、世界に対して面白と無茶と、だってそっちのほうがカッコイイじゃんっていう衝動だけで成り上がった芝居がここまできたよ、その舞台に新橋演舞場ほどふさわしい場所はないと思います。あと2か月、どうか皆さんご無事で、全員で走り抜けていってください!
