「メディア/イアソン」

世田谷パブリックシアターのプロデュース公演。東京公演をご覧になった方の評判がなかなかよかったので足を運んでみました。上演時間2時間だというし!(短い芝居だいすき)

ギリシア悲劇の「メディア」の上演というよりも、ギリシア神話で描かれる「アルゴー船の冒険」にはじまるイアソンとメディアの出会い、爆発的に燃え上がる愛情と、その裏返しのメディアの激情のさま、そして有名なイアソンの裏切りからの悲劇までを実にコンパクトにまとめていたと思います。私は幼少期に山室静氏の「ギリシア神話」の本を文字通り舐めるように読んでいたので、メディアの物語よりイアソンの金羊毛を求めた冒険の顛末のほうが馴染み深いぐらいなので、こうした再構成は大歓迎。

その幼少期の記憶で一番印象に残っているのが、コルキスからの脱出の際、メディアが追っ手から逃れるために船に乗っていた弟を殺害し、その亡骸を切り刻んで海にばら撒き、追手がそれをかき集める間に脱出した…というエピソード。今回の芝居でも取り上げられてましたね。強烈過ぎだし、そんなものを幼少期に読むなという感じですが、このときにイアソンはメディアのあまりにも苛烈な性格にすでに引いてるんですよ。そんなこんながあってのコリントスでのイアソンの裏切りにつながるわけで、メディアの悲劇は単に糟糠の妻を捨てたみたいな話じゃないんですよね。今回の上演だとその二人の燃え上がり方の早さと、それゆえのしっぺ返しという因果応報がうまく掬い取られて面白かったです。

タイトルロールのイアソンを井上芳雄さん、メディアを南沢奈央さんが演じていますが、総キャストがなんと5人のみというコンパクトな座組なのも、よかった。全員がくるくるとよく動き、多様な場面をしっかり成立させていて、スピード感のある脚本とマッチしていたと思います。あとねー、舞台美術がめちゃくちゃよかった!!!スタッフ調べたら伊藤雅子さんという方だった。船や風景が影絵のように浮かび上がるだけでなく、組み合わせでどんどん表情を変えていくのもよかったなーー。ギリシア悲劇というと重厚!みたいな雰囲気に偏りがちだけど、脚本も演出もどこか童話の世界というか紙芝居のような軽やかさがあって、それはこの美術の残す印象が大きく作用していたと思います。