「中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~」

  • SkyシアターMBS 1階J列32番
  • 脚本 源孝志 演出 蓬莱竜太

2021年にNHKBSで放送された「忠臣蔵狂詩曲№5 中村仲蔵 出世階段」のドラマを舞台化!大阪では大阪駅直結の新劇場SkyシアターMBS杮落とし公演でもあります。脚本はドラマ版と同じく源孝志さんが、舞台版の演出は蓬莱竜太さんが手がけられ、主役の仲蔵を演じるのはドラマ版では「謎の侍」で出演していた藤原さんちの竜也くんです!

今更言うまでもなくドラマ版では仲蔵を中村勘九郎さんが演じていたわけで、一応(一応言うな)勘九郎さんのオタクとしてはドラマがむちゃくちゃよかっただけに(特にクライマックスの五段目の見せ方がよかっただけに)本業の舞台で勘九郎さんが出演されないのはちと複雑なところがなかったとは言いませんが、しかし竜也くんがやるならそれはそれ!これはこれ!で楽しみにしてしまうのが演劇好きの性というもの。

でもって、実際に今回の舞台を見て思ったけど、これは逆に本職の勘九郎さんでなくて正解だったなと。仲蔵は孤児で、志賀山お俊に芸を仕込まれて舞台を志すわけだけど、その前に立ちはだかるのは文字通り血のつながりでそこに選ばれる御曹司たちなんですよね。血がなんだ、育ちがなんだという仲蔵の反骨精神は、この板の上で勘九郎さんが言うよりも、藤原竜也の口から出る方が、舞台の台詞以上のサブテキストがそこに生まれる効果があった。何もないところから蜷川幸雄に見出され、「演じたい」というその一心のみでのし上がる仲蔵と藤原竜也が重なって見えたのは私だけではないと思う。一幕の幕切れ、「役者は演じてなんぼだぜ!」あの啖呵の迸るような熱さよ!これぞ藤原竜也というべき鮮やかさ。

こうして見ると、ドラマ版の「中村仲蔵」は終盤、仮名手本忠臣蔵の五段目の実演に「いかに本物か」を見せる作りになっていて、対して舞台版の「中村仲蔵」は仲蔵自身の演じることへの情熱の具現化としてあの五段目を見せていて、なるほどそりゃドラマ版は勘九郎さんでないとだめだし、舞台版は竜也くんじゃなきゃダメだよねと深く納得した次第。脚本・演出のおふたりの手腕、さすがすぎる。

仲蔵の妻とかをバッサリ削り、より孤独を浮き立たせる人物像にしたのもよかった。ドラマでは傳九郎との絆がフューチャーされていたけど、舞台では市川團十郎との関係性にシフトしてて、演じているのがどちらも高嶋政宏さんというのも面白かったな。市原隼人さんはドラマ版でいうところの「謎の侍」ポジションなんだけど、この侍はドラマ版よりも書き込みがあって、そのバックボーンが感じられるのが好きでした。あと今井朋彦さんの金井三笑、ぴったりすぎる。そしてこういう現場における植本純米さんの腕の確かさよ!本当にいつもいい仕事してはる。成志さんはいつもながらに軽妙洒脱に人外を演じておられ、実に楽しげでした。

それにしても、舞台上で「怒り」を表現するという点において、藤原竜也は得難い表現者すぎるな。あの迸るような情熱、それを「表現」として客席に届けることができるのって、マジで口で言うほど簡単じゃないし誰にでもできることじゃない。本当にでっかい役者になったもんです!