木皿泉さんが脚本を手がけるということで話題の舞台。木皿さんだから、という理由でチケットを買い求めた方もかなりいらっしゃるようで、喜ばしき哉。演出は旧知の仲という、南河内万歳一座の内藤裕敬さん。
夜の間だけ開いているパン屋「極東パン」。彼らが夜にしか働かないのは理由があった。そこに住む男女3人は実は吸血鬼、けれどある日、ひとりが人間の男の子をつれて帰ってきて…という物語。吸血鬼という、これ以上ないほどエキセントリックな設定を使いつつも、地に足着いた会話劇が繰り広げられ、しかもそれをすんなり飲み込めちゃうから不思議です。(以下畳みます)
マリオを拾ってきたときのくだりを3人が何度でも繰り返すところや、自分の中で思い描いていた「家族構成」をそれぞれぶつけ合うところなどは、何か事件があるというわけでもないのにしみじみとしたおかしさと暖かさに溢れていてすごく心に残りました。
後半、マリオをふくめた4人の会話になってくると、なんというか観念的な会話が急激に増えて、それはそれで力のあるせりふではあるんだけど、写実と抽象が一気に交じり合ったみたいな感覚でちょっと戸惑った部分もあったかなー。僕、行くねというマリオに「どこに行くんだ」という返しがまったくなく、外に向かう覚悟だけを問い続けるあたり、あれっ、これはマリオの心象を描いているのかなと思ってしまうほど。
ラストシーンの、彼らが「彼ららしい」姿を見せて、ひっそりと沈んでいくさまはすごく美しかったです。
雑然とした「茶色ばっかり」のセット、小道具のひとつひとつが「昭和!昭和!」と叫んでいるような舞台を見て、この内藤テイスト懐かしい!と思いました。4人のキャストのバランスもとてもよくて、篠井さんはほんと唯一無二の存在感。萩原聖人さんの「おとうさん」、よかったなー。ああいう男性像にほんと弱いね、私。知ってたけど!(笑)