
監督・脚本は安田淳一さん。単館上映の自主製作映画が評判が評判を呼びあれよあれよと今や全国326館に拡大、大大大ヒット上映中という、「カメ止め」現象を彷彿とさせる話題の作品です。私はエンタメに生きる女として、「大勢の人が良いというものには必ずそれだけの理由がある」と信じていますので、こういうビッグウェーブには積極的に乗っていきまっせ~!ということで足を運んできましたよっと。
筋書きは非常にシンプルで、会津藩の侍が長州藩の侍と一騎討ちになるところにわかの大雨、大きな落雷のあと目が覚めると現代の京都にタイムスリップしてしまう。折しもそこは時代劇撮影所、タイムスリップした侍、高坂新左衛門は撮影所で助監督を務めていた優子や、行き倒れの高坂の面倒をみる親切な住職夫婦と出会い、次第に時代劇の「斬られ役」にやりがいを見出していくが…というストーリー。
脚本としてすごくトリッキーというわけではないんだけど、ちゃんと観客に驚きを与えてくれる展開もあって、シンパシーとワンダーの配分が絶妙でしたね。あの人がまさか!という驚き、そんな展開になるんだ!という驚き、同時にそれぞれの登場人物の思いにちゃんと沿えるから観客も無理なく作品にのめり込めてしまう。あとところどころにしっかりユーモアが効いているのもすごく好きだった。
「時代劇」が作られなくなっていることへの危機感は多くの人が語るけれど、それを「本当に過去からやってきた人」が「あの時代に必死に生きていた人間の縁を消したくない」という動機から語らせるのはむちゃくちゃ新鮮でした。
高坂を取り巻く「時代劇にまつわる人びと」がみんな、個性と愛嬌があってかつ、時代劇を愛している人たちとしてスクリーンにいるのも良かったですね。心配無用ノ介、あんなの好きにならないわけない。高坂がショートケーキを食べて「この国はよい国になったのですね」と涙するシーンは、住職夫婦のさりげなさも相俟ってむちゃくちゃ胸を打たれるシーンだったな~。
でも何よりこの映画の芯を支えているのは、チャンバラ、活劇、殺陣への愛じゃないでしょうか。高坂と風見が長い時を超えて「真剣で」相まみえる。そのシチュエーションにもっていくまでの展開も良いし、観客が思わず手に汗を握ってしまう「立ち回り」を、斬れば血が出る命のやりとりを目撃する。あの緊迫感たるや。あれはほんとうに、一見の価値があります。
舞台では何度か拝見していた山口馬木也さんの実直な会津藩士ぶり、すごくよかったな~。高坂と風見がこう、ぜんぜん違うタイプなのに芯でわかり合う感じ、うんうん、そうそう、こんなんなんぼあってもいいですからね…とぎゅんぎゅんに美味しくいただいてしまった私だ。あと何といってもエンドロールを見ていてビビったのが、監督・脚本の安田淳一さんの役割の多さ!10回以上クレジットされてましたよね。ご自身の貯金と車の売却代金と助成金で制作したと聞いて手弁当すぎる!と思ったし、これをきっかけに今度はもっといっぱいお金が使える映画が撮れるといいですね…!と思いました。劇中の台詞ではないけれど、いい仕事をしていれば、いつかどこかで誰かが見ていてくれる、それを地で行くような作品だなと思います。私が観たときもまだまだいっぱいお客さん入ってたので、さらなるロングランが期待できそう!