「東京ゴッドファーザーズ」

今敏監督によるアニメ映画を舞台化。原作の物語の骨組みがしっかりしているので、何よりまず物語として面白い。でもって、映像作品におけるスピード感を殺さずに演出している藤田俊太郎さんの手腕もすばらしい。非常に楽しめました。

クリスマスの夜、ホームレスのギンちゃんとハナちゃん、そして家出少女のミユキは、クリスマスプレゼント探しを当て込んだゴミ漁りのさなか、ひとりの赤ん坊を拾う。生みの親の顔も知らない寄る辺ない育ちのハナちゃんはその赤ん坊に清子と名付け、自分の手で育てたがるが、ホームレスの身の上ではいかんともしがたい。すったもんだの末、赤ん坊と一緒に捨てられていたコインロッカーのキーを足掛かりに、捨てた親を探そうとするが…。

原作アニメの、そのさらに元となるのが「三人の名付親」というアメリカ映画だそうで、この舞台でも冒頭が聖誕劇から始まるように、ギンちゃんハナちゃんミユキの三人は東方の三博士になぞらえられているわけです。そして「清子」に何らかの神の思し召しを見る。その構図が根元にあるので、そこからかなり破天荒な方向に(銃撃事件とか)物語が転がっても破綻しない。少ない手がかりから生みの親を探すというミステリ的な面白さと、行く先々で出会う人、ものごとから受けた影響が最終盤にちゃんとつながってくる。

脚本も細かいところで現在にアップデートしていて、コロナ禍であることを示す台詞やマスク姿、ホームレスを取り巻く過酷な環境、今の世の中が「弱者にとってより生き辛い」世界になっていることを感じさせます。

いやしかし、松岡昌宏!すばらしかったね。今までわりと出演舞台を拝見していると思うのだが、こんなに達者だったっけ…!?と目を開かれた思いであった。等身大の気のいい兄貴分、みたいな役よりも、本人を彷彿とさせない、振り幅のある役の方が活きるのではないか。声の通りがよく、芝居が大きく、座長として素晴らしい牽引ぶり。わけても、劇中でドラァグクイーンとして「ろくでなし」を歌う場面があるが、その光り輝きようといったらなかった。歌のうまさはもちろん、そのうまさが「役としてのうまさ」になってるのがすごいよ。本当に恐れ入りました。マキタスポーツさんのギンちゃんも実にはまっていてよかった。ミユキ役の夏子さん、春海四方さんや大石継太さんらも見事なアンサンブル。

緊急事態宣言継続中で、大阪府は土日の有観客開催については見合わせるよう要請が出されているんだけど、本作は上演劇場が兵庫県だったので首の皮一枚でつながった感じ。同じ週末で土日の上演を中止せざるを得なかったカンパニーもある中、なんだか劇中さながらに小さな奇跡を感じそうになりますね。