「vitalsigns」パラドックス定数

  • サンモールスタジオ 全席自由
  • 作・演出 野木萌葱

パラ定新作!タイミング的にここしかなく初日を拝見してきました。サンモール久しぶりだったな。まだ公演続いておりますので、これからご覧になる予定の方はこの先はご注意くださいませ。ネタバレしかありません。

深海救難艇が、ある潜水調査艇からの救難信号を受け取り、救助に向かう。深海800mでの遭難。パニックになってもおかしくないのに、通信の向こう側の声はやけに落ち着いている。落ち着いている?いや、これは別人だ。別人の声だ。その声が告げる。救助お待ちしています。信号は切っても大丈夫です。

小さな潜水艇の中での、登場人物5人の会話劇。かつて野田秀樹が、三谷幸喜が「オケピ!」で岸田戯曲賞を受賞した際の選評で、作劇のうまさを「花見の場所取りのうまさ」にたとえていたことがあるが、この戯曲もまず、その「場所取り」がうまい。完全なる密室にいる5人、対話するしかない5人、その中で他者という異物をもっとより具体的に「異物」として描くという。

こういうところ、最初に見たものを親と思うじゃないけど、私の中でどうしても「大いなる虚構」を描くものにぐっと惹かれちゃうところがある。野木さんはフィクションを書く人ではあるけど、ノンフィクションベースのフィクション、という設定が非常に多いので、こうした作品の展開は意外で、かつエキサイティングに感じられてよかった。

何者かに…体の中に侵入してきた何者か、ウイルスなのか、細菌なのか、そういったものが体内で知らない間に自分をすっかり乗っ取ってしまい、身体が作りかえられる。知識はあるが、記憶はない。ある意味「生まれ変わった」3人の調査艇の人間と、彼らを助けに来たはずの「オールド」な救助隊の2人。そう、これは見方を変えれば進化の話でもありますよね。「進化は起こるべきときに一斉に起こる」。劇中で変化しない六浦を「ニュー」「オールド」と呼ぶところがあるけれど、まさにある意味では六浦と葉山はオールドタイプ(ガンダム用語)であるともいえる。

そうした展開を描いたうえで、最終的に人間を人間たらしめているものはなにか、というような部分に踏み込んでいくのがすごい。酸素の減少した救難艇の中で、生き残るために誰を切り捨てるのか、あしたの夕飯のメニューのように犠牲者を選べるものは人間ではない?異物を前にパニックを起こし同胞を殺そうとするのは人間ではない?生き残ること、適応すること、周囲の人間が変化してくれること、そこに希望を見出そうとしても、それでも人間ではない?

葉山役は個人的にしどころしかねえじゃん!と思ういい役で、西原さんのバーン!と出る押し出しの強さが非常に活きていたと思う。神農さんといいコンビだったね。神農さんの穏やか、包容力ある、でも言うときゃ言う、みたいな役どころもはまってた。なにしろあのいいお声なので、聴いちゃう、六浦が話すと聞いちゃうのよ。植村さんもいいお声なので、いい声に目が(耳が)ないものとしては至福の時間だったぜ。

次回作は現在調整中とのことですが、またなんとかして拝見できたらうれしいな!と思っております!