「四兄弟」パラドックス定数

  • シアター風姿花伝 全席自由
  • 作・演出 野木萌葱

パラドックス定数の新作。東京公演だけでしたが、次回の劇団公演は来年までないと聞きいそいそ出かけてきました。しかしこの時期(3月春休み)の東京のホテル代の高さが尋常じゃない!遠征生活20年選手の俺ですがここまで普通のホテルが軒並み強気設定なの記憶にない(特に渋谷)。コロナ禍の反動ってのもあるのかなーしばらくは遠征したとしても日帰りを検討せざるを得ないか…?

セットがかなり抽象的だったので、どういう話になるんだ?普通の人物としての兄弟話じゃどうやらなさそうだぞ?と思ったら、完全に予想外の方向から来てビックリしちゃいました。具体的には国名も、名前も、思想の名称も台詞としては出てこないけれど、ロシア(ソ連)という国の革命と肥大と粛清と改革を描いているのは明らかで、それらをすべて「四兄弟」のナラティブにおさめきってしまうのがすごい。なんかこういう演劇久しぶりに見たな。

長男は銅像のポーズからも明らかにレーニンで、次男がスターリン、三男がフルシチョフまたはブレジネフ…あたりなのかな~。でも誰か個人というよりも、ソ連(ロシア)のたどった道と揺れをひとりの人間に見立てるような作劇なので、特定の人物というよりは象徴的意味合いが強いのかもしれない。かつては貧困から自分たちを救う希望であった赤いノートが、それへの信奉ゆえに、そして象徴としての作用の強さに、次第にそのノートに振り回されるようになっていくのが印象的だった。

しかしなかなかきわどいところを描くな野木さん!というのも思ったな。馬を愛し穀物を愛する四男の台詞はウクライナを想起させるものですが、野木さんの筆からは「赤のノート」に対するなんというか…愛着というか執着というか、そういうものを感じたのも事実。むちゃくちゃフラットに描こうとていて、実際それは成功しているけれど、こういうものに完全に中立でいるって無理ですものね。自分の依る脚がどこにあるのかっていうのを相当見つめないと書けないホンですよこれは。

自分の期待していた(予想していた)作品の方向性ではなかったけど、しかしだからこそ観ている間中エキサイティングだったし、こういうのって確実に小劇場の良さよな~~!!と思うところもあり、楽しかったです。ガチガチに凍り付くような場面と、それでも血縁ならではの緩さが、なるほど四兄弟、同族というくくりで観ることの面白さだなと。あと私の御贔屓の植村さんがすてきかわいい四男坊で今回は御髪も長くてマンバンが拝めたりしたし、あと今回のホン全員むちゃくちゃ喋るので、それもファンとしてはありがたかったね。植村さんのいい声堪能したし、つーかパラドックス定数みんな声が良いからなっていう。面白かったです!