「ART」

  • 南座 8列9番
  • 作 ヤスミナ・レザ 演出 パトリス・ケルブラ

真っ白のキャンバスに、良く見ないとわからない、斜めの線が描かれている。そんな絵。この絵をとある男が買った。500万円で。500万の絵の価値をめぐって、友人三人それぞれの価値観があぶりだされてくる。

お恥ずかしながらというか、私はいわゆるアート、と呼ばれるものにうとい人間で、とかいうとこれがまた登場人物のマークのようないやったらしさに通じているように思われるとあれなのですが、ほら、星の時計のLiddellの中でさ、美しさを感じるというのは相互依存システムによるっていう話が出てくるじゃないですか。つまるところ「受信」するほうにもその同じだけの美しさがあるっていう。私は「アート」ってものを向き合った時いつもこの台詞を思い出すんですけど、そう、つまるところ私には受信装置がないのだなあ、というような。おっとなんの話だ。

なので、この中でいけば私はおそらくマークの立ち位置に近いところにいるんじゃないかなあなどと思ったりしながらみました。いや、でも私にとって「わからない」からこそあんな風に一刀両断にしたりしないけどね!あのマークの「自分にわからない価値があるかもしれない」という点でいっさいの譲歩を見せない姿勢もイラっとくるし、セルジュの「わからない、かわいそうなおまえ(たち)」目線もイラッとくるし、イワンはイワンで罪がないようで「たかが絵」とかさらっというし、しかもしまいには「あの絵と俺とどっちが大事だ」みたいな…いやそこまで直截じゃないが、でも「あの絵より特別な俺」を実証させるっていう展開になっていやもう予想外にもほどがありました。

初演時のメンバーが揃っていて、もちろん巧者ばかりの顔ぶれなので、やりようによってはそうとういやらしい見せ方になりそうなところを、キュートさ、愛嬌を失わずに演じていたのがやっぱりさすがだなーとおもいました。とはいえ、南座というサイズで見る芝居ではないかなー。やっぱりもっと凝縮した空間で見たかった。

平田さんのイワン、痩せたという設定のため終始ぶかぶかの服に萌え袖で、あ、あ、あざとかわいい!!って感じだったんですけど、やっぱり白眉はあの遅刻の顛末を語るところですよね!微動だにしない市村さんたちのおかしみはもちろん、まさに弾丸というスピードできっちり聞かせきる平田さま、さすがすぎます!!!