「黒白珠」

脚本家も演出家もキャストもガッチリ手堅い、何より河原さんが演出なんだしそんなヘンなものにはなんないだろう…ということで足を運んできました。以後、かなり終盤の展開までがっつり書いているので、これからご覧になる方は回避が吉です。

見終わった後に、これ見方によって「ミステリ&親子愛のマリアージュ」とも見れるけど、同時にめちゃくちゃホラーにも見れるなって思ったんですよね。ホラーっていう喩えが適当じゃないのはわかってるんだけど、なんかあえてホラーと呼びたい。

舞台は長崎。幼いころに母が家出して、父に育てられた双子の兄弟。奔放な兄とまじめな弟。ふたりの母親は父の弟と駆け落ちしたと周囲では噂されている。双子の兄はその失踪した父の弟に瓜二つで、まことしやかにもう一つの噂が聴こえてくる。あの子の本当の父親は…?

あらかじめ提示されていたあらすじと若干テイストの異なる展開になってましたね。もっと兄弟の確執をゴリゴリ抉るのかと思っていた(愛される兄と愛されない弟的な展開はまあ、ほぼなかった)。遠い過去に失踪した母が戻ってくるが、その母は病に倒れ記憶が混濁していて、その失踪した過去に何があったのか…が物語を引っ張るカギになっているので、ミステリぽさはある。

いや、それで何がホラーだなって思ったかっていうと、途中で父が述懐するじゃないですか。あれが正しいことだったのかわからない、俺はあいつからすべてを奪ったのかもしれない…。いやホントその通りで、でも最後、弟とのわだかまりも解けて、なんとなく談笑して食卓を囲むみたいなラストシーンになったので、えー!って思ったんですよ。確かにあそこで母親が「約束」って言って「あたし逃げたの」っていうのは良いシーン。でもそこに乗っかって終わるのか!っていうのが驚いた。あの母親は夫の弟にひどい目にあわされただけでなく、生んだばかりの我が子と別れ、やり直すチャンスもなく、びくびくしたまま日々を暮らし、挙句の果てが脳溢血で記憶が混濁して何もかもわからなくなって終わりとか、えー!ってなりませんか。殺人犯にしたくなかった…って、いやそれはあなたのエゴだししかもこの最大の真相を明らかにするチャンスも見送って終演なのかよという。母親の立場から見たら完全にホラーでしょうよというね。

実の父が誰なのかなんてことより、育ててくれた人のことを信じろ的な台詞があって、それは勿論真理なんだけど、どうせ書くなら「自分が兄弟から母親を奪った」ことを告白して、そこからのことを観たかったぜと思ってしまいました。

こういう話をしんねりむっつりやるんじゃなくて、ちゃんと軽快さを残してるのは河原さんぽさだし、観客としては助かるところ。風間杜夫さんはさすがのうまさ。風間さんと村井さんのふたりのシーンなんてわたしのおじセンサーがびんびん鳴りまくってたいへん幸せでした。松下優也さん、どこかで…?と思ったらメタマクの元きよしだったのね。あの時とはまた違うタイプのキャラクターで面白かったです。植本さんや平田敦子さんはどこで拝見してもちゃんと爪痕残しててさすがだなーと思いました。