「ワレワレのモロモロ・東京編」ハイバイ

  • アトリエヘリコプター 全席自由
  • 構成・演出 岩井秀人

「それぞれに起こった『こいつはヒデーぜ!』という話をつないだオムニバス作品。オムニバス大好き!みんなもっとやればよいのに。とはいえ、いい短編を書くのはいい長編を書くより難しそう(私見)なので、そんなに気軽にほいほいとできるものではないのかもしれませんが。

もともと、いろんなワークショップで岩井さんがやっていた試みなのかな?私は今回が初見でした。出演者それぞれが1本ずつ書き下ろした計8本。いやー、むのすごく面白かったです!せっかくなので、1本ずつタイトルと感想をメモ。

◆ほほえみのタイ/作:上田遥
初めての海外旅行でタイのチェンマイにいったときの話。同行者の、日本でいるときはたいして気にならない部分が海外で露呈するともんのすごイリイリする、というまさにあるある。
◆トンカチ/作:池田亮
「ものすごいいじめられっ子」だった自分が家庭でも抑圧されていたという話。見ている間、この話をやることをお母さんには言ったのかな、と気になっていたので、終盤に母に相談した、というシーンにどきっとしました。そしてその中での母親の「いいんじゃない?それが創作活動ってやつなんでしょ?そういうことをやるためにたっかいお金出してあんたを大学まで行かせたんだから…みみっちいね。あんたは、ほんとに、みみっちいよ」という台詞のインパクトが強烈でした。反対されたり、嫌みを言われたり、泣かれたりという反応は想定できるところだけど、この「みみっちい」という言葉のチョイスはすごい。
◆いとこの結婚/作:平原テツ
実際にその場にいたらたまんないだろうけど、こうして芝居に昇華するとここまで笑えるか、という素晴らしい一例。気の合ういとこがものすごく年上のバツイチの男性と結婚して、お祝いに食事となったはいいが、前妻のことでふたりがもめだす…という。仲裁に入ったのに完全に飛び火するのも笑えるし、男性のキレぶりとごまかしぶりも笑えるし、あげく「売れてる」「売れてない」で諭されモードに入っちゃってるのもおかしい。「売れて“は”いない俳優」。泣ける。それはそうと平原さんはいい声してます。声フェチの私が保証します。
◆深夜漫画喫茶/作・師岡広明
池袋で一番安い漫画喫茶の深夜時間帯の地獄絵図。「人間観察のためにバイト始めたのに人間の部分がほとんど失われているやつしかいない」って台詞秀逸すぎました。延長料金払えなくて咥えてきちゃう男の子、お金がなくて手首切っちゃうおばあさん、メロンソーダをアロマキャンドルのように部屋に並べる女、高圧的なことだけが取り柄のような男。動物園もかくやな阿鼻叫喚の中でのダンスシーンよかった。ああいうの好きです。

ここまでが前半4本。

◆おやじとノストラダムス/作:荒川良々
ザ・九州の男。うちの母の実家が北九州なのですが、ああ、ある、いる、いる、と見ながら心のあるあるボタンを連打しまくりました。特にあの「お前もう按摩になるしかなか」みたいな言い方!同世代というのもあってコックリさんへの無暗矢鱈な執着もなつかしかったです。シャーペンにコックリさん入れた後の平原さんの芝居、絶妙すぎました。
岩井さんのは後述。
◆『て』で起こった悲惨/作:永井若葉
ハイバイを見に来る観客なので、「て」の観劇率も高いし(私も2回観た)、それもあいまって「実際にその場にいたらたまんないだろうけど、芝居にするとここまで笑えるか」のこれもまた素晴らしい一本でした。地方公演での配役チェンジを前にした稽古、時間が余って役をくじで入れ替える「めちゃくちゃ通し」をやることに。正確性は問わない、あくまで自分の解釈で、のはずが…?実際にどんな芝居だったかを見ているというのもあって、ボタンが掛け違っていくところが手に取るようにわかるし、そのしわ寄せが永井さんに集中していくのもいやもうご本人にしたら文字通り「悲惨」でしかないけど、どうしてあんなに笑えるんだろう。あの「あなた初演からこの場面出てるよね!?」の繰り返しから始まる岩井さんの追い込み、そうか…ハイバイでもあの誰がどこに何を求めて追い込んでいるかもはやわからなくなる演劇伝統の追い込み漁が存在するんや…と思いましたし、「下に!下に向かって言うんだよぉ!」「母音で勝ちにいこうとしろよぉ!」涙出るほど笑いました。
◆きよこさん/作:川面千晶
お笑いパブに勤めていたときに出会った女性の話。こいつはヒデーぜ、というのでもやっぱりいろんな意味があって、憤慨するヒデーもあれば、しみじみと誰かとかみしめるヒデーもある。あるきっかけから仲良くなって、でもってちょっとした罅も入って、生と性の話をしながら笑って泣き合う女性ふたりにほんと胸がぎゅーっとなった。最後を締めくくるに相応しい一本。平原さんの「きよこさん」ぶりが最高でした。

さて、8本どれも面白かったのですが、1本選べと言われたら、私はやっぱり岩井さんのやつを選んでしまいます。
◆山、ネズミ、かめ/作:岩井秀人
まず、書ける人が書いたっていうのは如実に出るんだなあと8本まとめて見て改めて思いました。ほかの作品はどれも、書いた「当該人物」が出てきて、その状況をざっと説明して「場面」を演じていくんですが、岩井さんは出てきて「どうも、私です」と言うだけ。あとはすべて台詞で、対話で構成されていく。そして何も具体的には説明されないけれども、観客は彼らがどこにいて、どういう状況なのかを把握していく。
岩井さんが演じているのは女性で、そして描かれた状況からしても、これはご本人の「ヒデーぜ」ではないのでしょう。ごく近しい方のものなのか、そうではなく赤の他人のことなのか、そこはわかりません。分断される家族、分断される国家、またいつか会えるの「またいつか」がもう来ないことを感じないではいられない人たち。そしてそれは今、まさに、現在進行形の話なのだ。岩井さんは、聞きなれた曲を劇中で効果的に使うのに長けた方だが、この短い芝居でも、中島みゆきの「時代」を絶妙に響かせていた。あんな時代もあったねときっと笑って話せるわ…。その「いつか」への想いを思うと、ほんとうにどうしようもなく泣けてきて、「時代」を聞きながらこんなに泣いたの初めてだし、これから聞くたびに泣いてしまうんじゃないかという気さえしました。

このオムニバスの作品たちは基本、「シンパシー」、すなわち、あるある!わかる!というような感情を観客に抱かせるのに成功していたと思うし、そのうちの何本かは、さらに「ワンダー」、驚きの要素も感じさせてくれたとおもうけれど、自分にあり得ること、身近なこと、経験したことだけが「シンパシー」を引き起こすのではないのだ、と岩井さんの作品は証明しているような気がして、やはり、すごい方なんだなあと改めて実感いたしました。

休憩10分を挟んで2時間半、最初に上演時間を聞いた時には、ハイバイなのに長い!と驚きましたけど、本当にあっという間でした。めちゃくちゃ笑ったし、笑いながらこんなに悲惨なのにこんなに笑える!と思ったし、さらにはそれ以上にぐいぐい泣かされてしまった2時間半でした。年の最後に1年のベスト級の1本。堪能しました。