「世界は一人」

初日に拝見しました!岩井さん初の音楽劇、初のプレイハウスで錚々たる布陣のキャスト。しかし、とうとう大劇場に進出!みたいな感じは私の中ではあまりなくて、シアターイースト(ウエスト)から続いている道を歩いていたらここに出た、という感覚で観ていました。

実は、というか、いやもうこのブログで何度も書いてるんだけど、私は音楽劇を非常に苦手としていまして、まだ音楽に全振りしたミュージカルのほうが食いつけるんですよね。たぶん自分の中の音楽を受け入れるスイッチがむちゃくちゃ固いんだと自己分析しているんですが、どうなんだろう。なので今回もキャストは大好きだし岩井さんの新作だしもうむたくた楽しみ!という鼻息荒い気持ちと、いやしかし音楽劇かー!という苦手意識のマリアージュな感じで開演を迎えました。

鉄鋼で栄え、その繁栄ゆえに環境を汚染し、汚染ゆえに衰退した街の同級生三人。汚染された汚泥は浚渫工事によって浄化されたけれど、その汚れた汚泥はいったいどこへいったのか?どんなひとの人生にも必ずあるだろう、浚渫しきれない汚泥はいったいどこへ行くのか?

観ていていちばん驚いたのが、むちゃくちゃ「松尾スズキ」を感じる作品だったんですよね。松尾さんの作品に似てるということではなく(そういう部分ももちろんあるけど、キレイとか、業音とか)、「松尾スズキ」という人を感じさせる芝居というか。岩井さんの今までの作品を見ていて松尾さんの作風に似てるなんて思ったことなかったので、そこはすごく新鮮でした。岩井さんの作品にあった「世界」に対する「自分」というところから、言ってみればインナーワールドからインナーが取れた作品を描くとこうなるのか!という面白さがありましたし、描かれる世界のイレギュラーの数々のパンチ力がときどきクリーンヒットして痛さに唸る、みたいなのを繰り返した2時間10分だった気がします。

主人公の語っていることは当然ながらその人物から見た世界であって、違う方向から光を当てるとまったく違う側面が見えてくるっていうことを、決して大仰な演出ではなくさらっと展開して見せていくところが岩井さんの凄さだしこわさだよなーと思いました。自分の妻に執拗に「間違ってるよ」と告げるシーン、あそここわかったなホント…。

音楽スイッチがガチガチに固い私ですが、最初は一瞬戸惑ったものの、前野健太さんの「音楽力(おんがくぢから)」が強力なおかげで割と早い段階から「あっ音楽!」と構えてしまうことなく台詞と歌を地続きで受け止めることができてよかったです。加えて松さんや瑛太くんの歌のうまさ、松尾さんのチャーミングさが世界に入っていく手助けをしてくれてた感じでした。

そう、松尾さんてほんと、チャーミングですよね。かなり抉られる展開が続く中でも、松さんと瑛太くん、そして松尾さんの3人のチャーミングさにずいぶん助けられましたし、あと平原テツさん菅原永二さんの力も大きい!岩井さんの文法を熟知してらっしゃるというのもあるけど、性別を意識させない立ち位置に立つのがうまいですよねおふたりとも。

ハイバイドアが大きな劇場になって進化してハイバイハウスみたいなセットになっていて、これが機能的で動きもあり様々な見立てもありですばらしかったです。ドアとベッドを設えるだけでいかようにも世界が広がるんだなというのを目の当たりにした感じ。劇場が大きくなると演出のサイズ感があってない、みたいなことになりがちですけど、全然そんなことなかったなあ。自分の座席が異様に見やすくて、むちゃくちゃ芝居に集中できたのもあり、終盤のとあるシーンで突然涙が突き上げるようにこぼれたりしました。最後にまた同じ構図に帰ってくるところ、私の好みすぎる~!これからの岩井さんの作品がますます楽しみです!