「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」

情報解禁になったときには、松尾さんが!BL!みたいな方面での取り沙汰が多かったような記憶があって、東京公演のときには評判はうっすら聞こえてきていたけど個人的にじっくりネットの感想をたどる余裕がなく、なので初日からずいぶん間を開けての観劇ではありましたが、ほとんどまっさらの状態で見たような感じです。

なにかしら社会情勢にコミットしたものを書く、という欲求が作家の中にあるとして、松尾さんが中東情勢に切り込んできたことはちょっと意外でした。しかし切り込んだ先が先であるゆえに、展開はどんどんヘビーになっていく。けれど、松尾さんは最後までその重さに沈まないように書ききっているのがすごい。芝居を観ながら、笑って、笑って、ずっと笑っていて、ふと気がつくと自分がとんでもないところで笑っていることに気がつく。そのぞっとするような感覚をこれでもかというほどに味わわせてくれました。

「親切をなすりつけさせてくれ」という台詞があるけど、「ふくすけ」での「俺に親切にするな」から始まる長いパンチラインを思い出したし、松尾さんのなかでこの「親切」「同情」というものへの本能的ともいうべき警戒ランプの鋭さは共通しているところだよなあと改めて思ったり。

サダヲちゃんは役者としてはかなりの剛腕という印象がありますが、今回は終始受けに回っていたのが新鮮でした。受けることで芝居を引っ張っていくのはなかなか難しいと思うけど、ちゃんと舞台を牽引していてさすが。その代わりというか、寺島しのぶさんはすんごい球をブンブン投げてましたよね…いやすごい。岡田将生くんは舞台を拝見するたびに思うけど、ほんとに滑舌がいい。声が良い。すばらしい財産だよなあ。でもって、並みいる大人計画の猛者を差し置いて、差し置いてというか、しのぶさんが投げているのが剛速球なら変化球を担っていたのは間違いなく岩井秀人さんで、いやーすばらしかったんじゃないでしょうか。なにが素晴らしいって、あの世界で最後まで重力を感じさせない佇まい!あの世界、あの台詞の中にいながらあの軽やかさ。観客のハートを鷲づかみするにも程がある!

私が拝見した日のカーテンコールで、3度目かな?出てきた時、松尾さんが岩井さんに(前に出て何か言えよ、言えよ)って無言で促してて、岩井さんそれにえっ俺?ほんとに?俺?って何回も確認してキョロキョロしながら出てきて、「あっ、今日はお暑い中本当にどうもありがとうございました、僕実は昔ひきこもってたんですけど、あっ自分の話していいんですかね?」って喋り始めたら、松尾さんらキャストがささささーっと捌けてしまって、岩井さん舞台上でポツ子にされるという現場を目撃いたしました。そのときのアタフタぶりも含めて岩井さんのキュート株ストップ高でしたよ!作/演出としても大好きだけど、こういう役者さんとしての岩井さんももっと見たいなあ!