「白き山」劇団チョコレートケーキ

  • 駅前劇場 C列15番
  • 脚本 古川健 演出 日澤雄介

劇団チョコレートケーキ新作。今回も「歴史的な事実を参考にしたフィクション」ではありますが、今作は斎藤茂吉という歌人を題材に選んだのが新鮮だった。しかも茂吉の晩年の作家としてのスランプというか、老年における創作への向き合い方みたいなものに焦点を当てていたのも今まで見てきた劇チョコの作風とはちょっと違ってこれも新鮮でした。

疎開のため故郷山形で妹の嫁ぎ先の離れに間借りし、そこで終戦を迎えた茂吉と、その茂吉の身辺の世話をしている賄い婦のみや、そして東京から父を訪ねてきた息子2人、登場人物は4人。

教科書で習う程度の斎藤茂吉の業績というのはもちろん知っていても、茂吉が戦争というものにどう向かい合い、どう認識していたのか。「戦争詠」によって生み出された作品と自分の創作への姿勢にどのように答えを出すのか、という部分、とくに茂吉があんなにも戦意を煽るような歌を残していたとは知らなかった。もちろん、あの時は「誰でもそうした」のだろうし、時局に対する認識も、彼が特に好戦的であったというものでもないのはよくわかる。しかしだからこそ、敗戦によって価値観が文字通り180℃転換したとき、彼の年齢もあってその過去に折り合いをつけるのは難しいというのは、フィクションとしても実に納得のいく描写でした。

みやが第一歌集の「赤光」を持っており、その素直な賛辞に茂吉が打たれるのとか、ちょっと手に垢…というか、よくある流れのように思えてしまったけど、みやが単純な賛美者じゃなくて、一流の批評家の目を持っているという見せ方になっていたのはよかったなと思いました。

ラストシーン、茂吉が故郷の山を見る、その光景をあの狭い駅前劇場で我々に「同じものを見た」と思わせてしまうの、演劇だなあ!と心底思えて嬉しかったです。ああいう風景を見るために劇場に通い続けているのかもしれない。

斎藤茂吉というと「息子が北杜夫」と反射で頭に浮かんでしまうので、西尾さん演じる宗吉の言動についつい北杜夫のイメージを重ねて見ちゃいました。まじめで気の優しい長男茂太との対比も含めて、そのイメージを裏切らないキャラクターで好きでした。うなぎの缶詰のくだりとかあまりにも「らしい」。おかげで終演後、うなぎが食べたくなっちゃって困りましたよ!