「坂東玉三郎特別公演」

玉三郎さまの単独公演で「阿古屋」がかかるというのでいそいそと南座まで。玉さまの阿古屋、いちど歌舞伎座で拝見したことがありますが、大役なだけに拝見できる機会があったら逃したくないやつのひとつ。今回は玉さまの口上と、千次郎さんによる演目解説を挟んで「壇浦兜軍記」の上演。

最初の口上で玉三郎さんご自身がかなり詳細にこの阿古屋の役柄の掘り下げ、心情、詞章の素晴らしさなどを語ってくださるので、聞きながら「こ、これは『伝心~玉三郎かぶき女方考』の実演バージョンじゃん!」とひとりで大興奮。何を隠そう私はこの番組の「阿古屋編」が好きすぎて何度も見返しているんですよ。阿古屋の出の「水あげかぬる風情かな」とか、景清との馴れ初めの「羽織の袖のほころびちょっと、時雨のからかさお安い御用、雪のあしたの煙草の火」とかへの思いをたっぷり聴けてお得気分だった。演目解説をつけるのは、壇浦兜軍記は琴責めの段ばかりがよくかかり、通しではなかなか出ないこともあって、その舞台背景も良く知っていただきたいという思いから解説をつけられたそうです。口上ではそのほかにも、ご当地南座での思い出なども語ってくださって楽しかった。昔の顔見世は演目が押すと最後の若手の舞踊が「今日はナシ!」と飛んだりすることもよくあったそうで、なるほど鷹揚の御見物の精神だね。というか玉さま多分南座結構好いていただいている気がするので、関西人としては嬉しいかぎりだ。

口上で玉三郎さんご自身が、こうしてお白洲に引き出された阿古屋は実のところ、景清の居所を知っているのかどうなのか、という点について、はっきりと「阿古屋は知らない」と思って演じていると仰っていたんですよね。そういうのって見る側の解釈じゃんという見方もできるけれど、この阿古屋の肚が「知っているけど隠す(隠し通して重忠をだませるほどの冷徹さを持つ)」ものとして演じるか、「本当に知らない(だからこそ恋人への思いで揺れるさまを音に出させない)」のかは、阿古屋を演じるうえで玉さまが大事にされている部分なんだろうなと思いました。前回拝見したときは、箏、三味線、胡弓いずれも、実際に役者が演奏する凄さに引っ張られて観ちゃった部分がありましたが、今回はそれぞれの音色の違いも楽しめてよかったです。箏はやっぱり、むちゃくちゃ華やかだね。その華やかさが三味線の奏でる情の濃い音色に変わり、最後に胡弓の哀切につながるの、よかったなあ。千次郎さん岩永の人形振りも堂に入っていてよかった。

歌舞伎の上演形態は今のところ昼夜の部(または三部制)で、複数の演目が組まれるのがほとんどですが、こんな感じで一つの演目に絞って上演時間を短く、値段も抑えめで…とかしてくれると、実際に観に行く選択肢として入りやすいよな~と思ったりしました。いやまあ今回のは玉さまなのでお値段はもちろんあまりかわいくないんですけど(笑)