「八月納涼歌舞伎 第一部」

「刺青奇偶」。この演目といえば思い出すのが、勘九郎さん(当時まだ勘太郎さん)が書いた「歌舞伎の名セリフ」って本で、お父上がこの演目が大好きで、「家を出るときから博徒の顔になってる」って書いてらしたこと、9年前に勘三郎さん、玉三郎さん、仁左衛門さんの顔ぶれで上演したときも、勘三郎さんが「大好きなだけに、めったにかけない」のでこの機会を逃さずぜひ、と仰っていたことです。今回は中車さんの半太郎、お仲を七之助さん、政五郎を染五郎さんで、演出はなんと玉三郎さま!

玉さまが演出をされたということももちろんあるのでしょうが、あの最初の場面、石灯篭にもたれかかったお仲の佇まい、どこか投げやりなお仲の口調と声、えっ…今出てるの七之助さんだよね!?とリアルで目を凝らすほど玉三郎さんに似ていてびっくりしました。この演目の見どころといえば、お仲が半太郎に刺青をする場面じゃないかと思うんですが、怒らないでね、と言いながら「博打はいけない、いけないと言いながら死んでいった女房がいたことを」と大好きな半太郎にせめてもの意見をするお仲の切なさが沁みてとてもよい場面でした。中車さんの半太郎もとてもよかったです。お仲と出会う場面のところが特に好きかな〜。政五郎とのやりとりのところとかは、どうしても勘三郎さんを思い出しちゃったところもありましたが、中車さんのニンにも合っていて芝居巧者なところを堪能させてもらえました。

「玉兎」「団子売」。舞踊がふたつ、玉兎は勘太郎さんがひとりで!いやもうあの歌舞伎座の舞台でね、6歳の勘太郎くんが、5分強とはいえひとり!ひとりで!舞台の上をもたせるんだから、そりゃ歌舞伎役者の胆力違って当然だわ…とかしみじみしますね。ちゃんと音を聞いて踊る、ってことに集中していて、でも見ていてハラハラするっていうのでもなくて、勿論ほほえましいんだけど、でも学芸会じゃくてちゃんと「芸」になってて、こうしてぐんぐんうまくなっていくんだなーと思いました。あのほっそい足、まだ所作板がトスっとかパスっとしか鳴らないんだけど、お父さんやおじいちゃんみたいに、歌舞伎座に響き渡るようないい音をそのうち聞かせてくれたりするんだろうな。

そして勘九郎さん&猿之助さんで「団子売」!いやーこれ、至福の15分でした。もともとお二人とも踊りの名手だし、タイプは全然違うのにすごく相性がいい(と私は思っている)し、でもって亀治郎さんが猿之助さんを襲名されて以降、こういった女房役を拝見する機会が減ってしまったというのもあり、楽しみにしていましたけどそれ以上に目の御馳走だったよーーー。もう一回見たい(出た病気)。途中でお福がぐっと顔を寄せるんだけど、その時のお二人の顔!めちゃかわいい!!あの写真ほしい!!シャープでキレのある勘九郎さん、ふっくらと大きく安定感のある猿之助さん、いやーもうずっと二人が踊ってるとこみていたいよ…とすら思うほど。おかめひょっとこの面をつけてからの踊りがまたいいんだ!これからももっとお二人ががっぷり踊りで組むところ見たいです〜〜!!!ことだまことだま!