「八月納涼歌舞伎 第二部」

修禅寺物語」。彌十郎さんの父上と兄上の追善興行と銘打たれ、修善寺に住む面作師の夜叉王を彌十郎さん、その娘桂に猿之助さん、将軍頼家を勘九郎さんという配役。今回初めて拝見する演目で、全然展開を知らなかったので終盤びっくりしました。夜叉王は頼家に頼まれた面がどれだけ打っても生きた人間の顔にならない、と渡すのを拒みますが、出世欲の強い桂がすでにうちあがった面を頼家に渡し、頼家はその面も桂も気に入って連れ帰ります。頼家は後ろ盾の比企氏をうしなって幽閉されている身の上で、北条氏に命を狙われているわけですが、すごいのはここからの展開で、北条氏に襲撃された頼家を救わんと、桂が夜叉王の面をつけて身代わりとなろうとするところ、夜叉王宅に帰り着いた娘の姿と、そして頼家最期の知らせを聞いた夜叉王が、自分が打った面が「生きた」ものとならなかったのは頼家のこの運命を感じ取っていたからなのだと喜び、さらには娘の断末魔の顔を写し取ろうとするところで幕、という。

芸術に魅入られたもののまさに業、としか言いようのない物語で、これ今月の三部(桜の森の満開の下)にも通じるものがあるなア…と。しかもその「業」を持つものをなんの批評(つまり、だからこういう末路を辿りますよとか、そういう因果応報律のようなもの)をせずに、ここで幕切れとするのがすごい。

夜叉王のもうひとりの娘楓を新悟さんが演じており、面を打ち壊そうとする父を必死に止める場面とかよかったです。あと勘九郎さんと猿之助さんの組み合わせが大好きな私には一部に続いてなんつう御馳走…と思いながら堪能しました。五月に続いてこんなに連続で御馳走頂いちゃっていいのかしら!いいんです!

歌舞伎座捕物帖」。こびきちょうなぞときばなし、で去年に引き続き弥次喜多コンビが歌舞伎座に帰ってまいりましたよ!前回に比べて今回はとっ散らかりながらもちゃんといちおう「筋」の種を蒔いてそれを回収する、という展開があるお話でした。

いやしかしね、これ八月の第三部は完全に(歌舞伎としては)新作で、二部にも新作。両方出演される染五郎さんお稽古どうすんの!?働かせすぎじゃない!?七月もいっぱいいっぱいまで松竹座出てたのに!って思って心配してたんですけど、実際に観てなーるほど、この手があったか!とポンと手を打ちました。

今回の「捕物帖」、何がうまいって物語を「四ノ切」の舞台の上に据えているんですよ。別名をつければ「四ノ切殺人事件」と言ってもいいぐらい。歌舞伎座の納涼興行に足を運ぶ観客だから、四ノ切にはもちろん馴染みがある人が多いだろうという目算だろうし、そういう共通認識と四ノ切の劇中劇があるおかげで、弥次喜多が話を転がしていく必要がない。それに加え、舞台の上では当代で四ノ切といえば、のひとりに間違いなく挙げられる猿之助さんがいらっしゃるわけで、ちょっとしたいじりや解説や、最後には本業の技をちらっと見せたりする愛嬌までも堪能できてしまうという。しかも四ノ切の有名な仕掛けを解説しながら見せてもらえるというお得感!加えて、この物語の中の舞台のうえで行われている、という体で巳之助さんと隼人さんの狐忠信が拝めてしまうという、これほんと唸る構成ですよね。

今回は終盤の展開を観客の拍手で決めます!という趣向があるんですが、こういう、作品の展開を観客に決めさせる芝居というとMOTHERのシャイバンと夢の遊眠社の「三代目、りちゃあど」を思い出してしまう私です(遊眠社の方は投票で決めさせるテイでしたが実は展開は1パターンなので、正確には違う)。私が見た日はAパターンでしたよ〜。

前回に引き続き團子くんと金太郎くんが利発な若衆で大変かわいらしく、巳之助さん隼人さん児太郎さんの若手が大活躍(児太郎さんのお蝶の素晴らしさよ!)、釜・桐座衛門の中車さんの土下座芸(違う)、勘九郎さんや七之助さんも顔を出し、そして最後はやっぱり手に手をとって飛んでいく染&猿コンビの仲の良さ!んもう!なんだか毎回見せつけられてるけど何度だって見せつけてもらって構わない!そんな心境です。染五郎さんが幸四郎さんになってもこういう趣向ふんだんなお芝居がまた拝見できるといいな!