「こんぴら歌舞伎大芝居 夜の部」

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  • 金丸座 青田組3の3番

「傾城反魂香」土佐将監閑居の場、吃又とも言いますね。勘九郎さんの又平、猿之助さん(当時亀治郎さん)のおとくで観たのが最初だったかな。その後も勘九郎さん七之助さんのコンビとか、仁左衛門さんの又平に勘三郎さんのおとくも拝見しております。今回は扇雀さんの又平に七之助さんのおとくの顔合わせ。

扇雀さんの又平は初役だそうですが、個人的にはすごくよかったです。今まで見た中では、どうしてもおとくに「陽」のイメージがあることが多く、又平は「陰」だし、どこかキャラクターに最初から悲劇性があるというイメージだったんですよね。でも扇雀さんてどこか「陽」の雰囲気のある人で、それは序盤は「滑稽さ」に繋がりかねないところもあるんだけど、いよいよ彼が自分の声で必死に訴える段になると先ほどまでとの落差が効いてくる感じがある。必死さの中の哀れさがより強く滲むというか。七之助さんのおとくは逆にどちらかというと最初から悲劇性のある立たせ方なので、そこもうまくはまっていたのかもしれない。

手水鉢の絵が抜けるところ、じわじわ見えてくる…ではなくて描き終わってしばし間があってサッと現れる、というふうだったので観客も思わず「おおっ」という感じでざわめきがありました。あそこのさ、気がつきそうで気がつかないところ、ほんとうまいことできてるな~って思いますよね。客の心理をよくわかってる。

勘九郎さんの雅楽之助、短い出番ながらキリっとしたお姿、こういうのを見たいんでしょ?わかってるんですよといわんばかりのキレッキレの動きでもはや拝みそうになりました。飢えてるところに降ってくる大御馳走!ありがたくいただきます!

「高坏」。これ、この金丸座という小屋と、まさに花盛りという今の時季とがぴったり重なって、なんというか幸福感が倍増しで感じられた一幕でした。とにかく雰囲気がべらぼうにいい。この会場に来るときに観客は石段の前に咲いていた桜や道すがらの風景を、この演目を見ているときにも脳裏に思い浮かべるだろうし、演じ手もその共感を共有しているというのかな。会場全体にふんわりと桜とお酒のよい香りが漂っている気さえしました。

また勘九郎さんの次郎冠者も、前半の可愛らしさもさることながら、酒に酔って高足で舞い始めると、まさに馥郁たるというような柔らかさがあって、初役で見たときを思うと本当にずいぶん変わったなー!という気がします。私が見ていた回では大向うの「待ってました!」が絶妙のところでかかって、それもぐっとこちらのテンションを高めてくれた気がしました。

「芝浜革財布」。言わずと知れた落語の「芝浜」を歌舞伎化した作品。歌舞伎で拝見するのは初めてです。今回は昼夜ともに落語を題材にとった作品が入ってるんですね。

中車さんの政五郎、七之助さんのおたつ。もともとが落語噺なので、軽妙で楽しく見られるし、役者はふたりとも達者だし、大満足でした。中車さんも七之助さんも、前半の生活臭あふれる佇まいと、後半の旦那然、奥様然とした恰幅の良さ、羽振りの良さが際立つ姿も両方絵になるのがいいですよね。昼の部の「星野屋」とくらべると、あの暗転のときの処理とかは時代だなーと思ったりしましたが。

あと、サゲが落語とは違うんですけど、これは絶対落語のサゲのほうがいい~~!!と個人的には思います(笑)

さて、金丸座にお邪魔するのは何度目になるのかな、もちろん雰囲気が最高で気分がアガるのは間違いないんですけど、平場のお席で過去に結構つらい目にあったことがありまして、それ以来なんとなく腰が引ける!みたいになっておりました。しかし!今回は個人的にすごく席に恵まれて、今までの苦手意識もこれで払拭という感じです。

夜の部は1階の後方、青田組というところだったんですけど、これがもう…最高でした。青田組の2列目からは椅子席なので、視界がぐっと高くなるんですよね。観やすいし、何よりラク!しかも出口も近いのでトイレもすぐ行ける(大事)。あと今回平場が椅子になったので、観客全体の頭の位置が高くなったことにより低い位置での芝居が観づらいきらいがあると思うんですが、それもまったく影響なし。しかも私の座った3の3がど真ん中なんですよ。もう、普通に前見てるだけで舞台全体はもとより花道仮花道全部が視界に入り、しかも役者の目線と同じ高さ。これは芝居好きなら誰でもここに座りたい!というような席なんじゃないですかね。高坏で勘九郎さんがいざ舞わん、というところでバッチリ目線いただきましたー!みたいな錯覚だってできちゃうってなもんですよ。とにかく最高の場所で堪能させていただくことができて、感謝感謝です。