「こんぴら歌舞伎大芝居 昼の部」

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  • 金丸座 ろ1の2番

義経千本桜」すし屋。勘九郎さん、いがみの権太初役!ご本人も筋書で狐忠信と知盛はやったことがあるのでいつかは権太も…と思ってらっしゃったと書かれてましたね。

昨年暮れの顔見世で仁左衛門さまがちょうど権太をおやりになったばかりなので、その記憶もまだ鮮明なところですが、いやはやかなり違いますよね、上方の権太と。基本的に権太の「抑えきれない情」をあえて見せるのと、最後の最後までそこは抑えて抑えたうえに、それでも漏れ出るものの匂いだけをかがせる、ぐらい人物の見せ方が違いました。おもしろいなー。

勘九郎さんの権太、ドラマの影響もあって日焼けした浅黒さと引き締まった体つきが役に説得力を与えているし、まあなにしろかっこいい(結局そこ)。かっこいいのよ。弥助とお里のふたりを追い立てて部屋から出しちゃうときの傍若無人さも、母親に泣き落としでかかるときのクズっぷりも、どうしようもないやつ!と思いながら、でもかっこいい!と引き裂かれる私の心(別に引き裂かれてはいない)。銀三貫目まんまとせしめて、へいこらしながら戸を閉める、閉めた瞬間ぬっと顔立ちが変わって人相にも「いがみ」が滲み出る、あの変わり身の鮮やかさ!そして悪の魅力の満開ぶり!客席が一瞬どよめいたのもむべなるかなですよ。

あと、首実検のところもよかった。下手で、顔色ひとつ変えずに梶原を凝視してるんだけどさ、維盛の首に相違ない、の瞬間に表情はそのまま、だけど肩にひっかけていた袖がぱさっと落ちるのよね。あの首実検にかける権太の想いをそこだけに凝縮させるストイックさ!すごいね、歌舞伎!去っていく一行に向かっての「褒美の金、おたのもうしまっせ」のくだり、あふれる思いを出すな、出すなという権太の心の声が聴こえてきそうで、瞳がうっすらと滲んでいるような、それすらも出すまいとするような、あの横顔。いやーよかったです。

中車さんの弥左衛門、やっぱり語って聞かせるところでちょっとトーンが落ちちゃう感じがある。そのあとの亀蔵さんの梶原景時の台詞とか聞くと、こういう古典の体力っていうのはまさに積み重ねによるものなんだなーと実感します。とはいえ芝居味のある場面で客の視線を一気に惹きつける方だなーというのも思いました。歌女之丞さんは今月昼夜ともに素敵なところが沢山拝めてうれしかったです。鶴松くんのお里もかわいらしかった。

今回のこんぴら、勘九郎さんはタイプの違う三役で、正直…どれも好き~!って結論にしかならなかったんですけど、どういう役がいちばん人気があるのか、ちょっと聞いてみたい気もします。

「心中月夜星野屋」。昨年夏の納涼でかかった新作歌舞伎です。こちらも元ネタは落語。中車さんと七之助さんはそのまま、母親役が獅童さんから扇雀さんになりました。

これも、この金丸座のコヤの空気と演目がぴったり合った感じでしたね!もう、どっかんどっかんウケる。お客さんみんな手を叩いて大喜びでした。最初の、ついつい心中の約束をしてしまう、あたりも芝居のトーンがくっきり変わるのでわかりやすく、だからこそそのあとのおたかの返答のドライさが倍おかしいって感じありました。

七之助さんのおたか、美しくて、でも愛だのなんだのに夢を見るようなポエマーなところは微塵もなくて、実がないっていうよりもむしろ現実主義って感じで、それがむちゃくちゃ魅力的に見えてよかったです。扇雀さんとのコンビも最高。思えばこのお二人、野田版鼠小僧でも超リアリストな母子を演じておられましたね。ゴールデンコンビだな~。対する中車さんと亀蔵さんのコンビも絶妙。中車さんホントこういう演目での光り輝き方ハンパないです。

稽古屋座敷→我妻橋→稽古屋座敷に至る転換も客を待たせない工夫がされているのも個人的には花丸。あと、これはサゲにもう1枚上乗せてくる歌舞伎版のオチが好きです。ここで客席がまたドッと沸いて、その空気のまま打ち出し、というのがまた最高でした。

昼の部はありがたいことに最前列で拝見させていただくことができて、いろいろ感想とか検索してたら最前は照明が視界を遮るかも…というのもあったので、どんな感じかな…とおそるおそるだったのですが、幸い真ん中の芝居はきっちり見えていうことなしでした。ほんっとに近い、近すぎておそろしい、これに慣れちゃいかんいかんぞ、と言い聞かせながら、勘九郎さんの権太を文字通り穴が開くまで凝視させていただきました…ホントにファン冥利につきます!昼夜ともにこれ以上ない!ってほど堪能させていただきました!