「ザ・モーティヴ&ザ・キュー」


ナショナルシアターライブ新作。演出は「リーマン・トリロジー」のサム・メンデス、脚本は「ハリー・ポッターと呪いの子」のジャック・ソーン。サー・ジョン・ギールグッドがハリウッドスターを主演に迎え「ハムレット」を演出する、その稽古場から織りなされる役者と演出家のぶつかり合い、演劇の仕事というものを描くドラマ。

むっちゃくちゃ、むっちゃくちゃ、むっちゃくちゃ良かったのでこれから上映される機会をつかめそうな方はぜひ足を運んでみてほしい。演出も脚本もべつに観客を「泣かそう」だなんてぜんぜん思ってないしそんなお涙頂戴節とは一線を画しまくっているが、それでも(だからこそ)私は二幕の後半ボロボロに泣いちゃってましたもん。良かった。あまりにも良かった。

ハムレット」を上演するための稽古場を中心に物語が進んでいくので、原典の台詞とか少なくともあらすじとかは頭に入っているのといないのとでは感想が違うかもしれない。まあそこはもう基礎知識ってことなんだろうなあ。

一幕では主に主演のリチャード・バートンと演出のギールグッドの双方の意地の張り合いというか、ギールグッドが「やってみせる」演出が気に食わない(そんなふうに手本を示されること自体も気に食わない)バートンと、バートンの演じるハムレットがまったく自分の理想に程遠いため徐々にフラストレーションをためていくギールグッドのせめぎ合い、マウントの取り合いが描かれて、一幕ラストでそれがとうとう爆発しちゃう。酔っぱらって稽古に現れギールグッドに暴言を吐いてしまうバートン。

二幕ではバートンの妻、エリザベス・テイラーがバートンの出自を語ってギールグッドの心をほぐそうとしたり、バートンが共演者の真摯な言葉に耳を傾けもう一度役と向き合おうとする過程が描かれる。稽古場でギールグッドとふたりきりになり、ハムレットの解釈を語り合うふたり。そうしているうちに、バートンのとらえる「ハムレット」の芯を探し当てるギールグッド。

一幕の終わり、舞台にはギールグッドひとり。彼は「ハムレット」の第三幕第二場、ハムレットが役者たちにこのあとの芝居について語る場面の台詞を諳んじ始める。Speak the speech…。台詞は確かにハムレットのものなのに、次第にそのセリフが今向き合っている仕事に絶望しかかっているギールグッドの心情そのもののように聞こえてくる。そして二幕の終盤、ギールグッドはバートンに向かい合い、あの台詞を言え、という。どこの?第三幕第一場、ハムレットでもっとも有名なあの台詞を。

いやというほど聞いてきたあの「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」という台詞が、今度は父に捨てられ、母に死に別れ、その人生のなかで根源的な愛を与えられることのなかったバートンの思いそのものに聞こえてくるのだ。すごすぎる。「ハムレット」の台詞にこんなサブテキストを感じることがあるなんて。この台詞でこんなに泣いてしまうなんて。

タイトルの「ザ・モーティヴ&ザ・キュー」は訳せば「動機ときっかけ」で、ギールグッドが語るセリフの中にある。どんなに衣装を凝らしたりアレンジしたり工夫をしてみても、「動機ときっかけ」だけは動かせない、それが背骨だ、と。ハリウッドスターであるバートンがこの仕事を引き受けた理由を「芸術を愛しているから」とギールグッドが言ってみせるところもよかった。っていうか二幕後半の台詞、ぜんぶよすぎて戯曲が欲しいよ。

ラストシーンは舞台の初日で、舞台の奥から照らされるライトにしゃれこうべを手にしたハムレットが浮かび上がって幕。なんなのこの完璧な幕切れ。やばすぎでしょ!!(興奮)

なんか、平幹二朗さんが主演した「クレシダ」と相通じる感動があったなあ。それは何かというと、「演劇の仕事」というものへの愛と、愛ゆえの厳しさを感じさせてくれたからかもしれないと思う。サム・メンデスもジャック・ソーンも本当に演劇の仕事を愛してるんだなと思ったし、その思いに打たれまくっておいおい泣いちゃう私も、やっぱり演劇大好きなんだなあと思い知らされた気持ちです。

リチャード・バートンはかのエリザベス・テイラーの5番目の夫で、この芝居にもリズが出てくるんだけど、演じているタペンス・ミドルトンが実に魅力的で、文字通り「世界一の美女」の魅力を解き放っていてよかった。ギールグッドを演じたマーク・ゲイティス、名優を演じるという難しさもある中最高の演技を見せてくれてたし、バートン役のジョニー・フリンの芝居にも心打たれました。というかマーク・ゲイティス、ギールグッドを演じてオリヴィエ賞を受賞するってすごいな。レジェンドの天丼ですやん。

ナショナルシアターライヴ、地方ではたいてい1週間の限定上映で、なかなか複数回見ることができないんですけれども、これは近隣でもう一度観られるチャンスがあったら(扇町キネマとか)再見したいな。東京ではまだ続映のようだし、機会がある方はぜひ足を運んでみてほしいです!