「猿若祭二月大歌舞伎 昼の部」

「お江戸みやげ」。お辻を鴈治郎さん、おゆうを芝翫さんで。過去に拝見したときは芝翫さんがお辻、勘九郎さんがおゆうだったなー。

イマドキの言葉に変換すれば推しにガチ恋するあまり課金してしまうオタク…ということになるのかもしれないが、そう言ってしまうと零れ落ちるペーソスがある気がしちゃうな。田舎から出てきた行商のおばちゃん連れ二人組、お互い亭主に先立たれ、この江戸への行商で1年間の食い扶持を稼ぐ。まだ少しだけ売れる反物が残っていて、それを売り切れなかったと残念がるお辻さん。そんなひとが、ひょんなことから絶っているお酒を口にし、ひょんなことから芝居を見物して、そして「こんなに美しいひとにあったことがない」という役者に出会う。

私はもう大人だから、お辻さんが若い二人に渡した13両(100万から150万くらい)の重さと、そのあとも続く彼女の現実の生活のことを考えてしまう。同時に私もオタクだから、こんなふうに胸が高鳴ったことはない、こんなふうに男の人を好きになったことはない、その一瞬の真実のために明日をなげうってしまう、なげうつことでしかこの真実に報いる方法がない、と思ってしまう気持ちも、痛いほどわかる。

鴈治郎さん、さすがというかなんというか、このお辻のおばちゃんとしてのたくましさと裏腹の少女の如き揺らめきを見事に体現されていて、ほ、本職~~!!という感じがあった。歓喜やら不安やらの入り混じった「これがあたしのお江戸みやげだよ」、絶品すぎた。巳之助さんの栄紫も、お紺への愛情はもとより、役者としてのプライドを感じさせる誇り高さがあってよかった。あまりにもスッキリとした二枚目で、お辻が惚れてしまうのもわかる…!という説得力、大事。お辻を演じた経験のある芝翫さんのおゆうの明るさ大らかさ、絶妙な加減で、よい芝居でした。

松緑さんの「鳶奴」を挟んで「弥栄芝居賑」。本来はここで鶴松改め舞鶴の御披露、そして居並ぶ方々からのお祝いの口上、という予定のところ、猿若祭五十年を祝うという体に。あたりまえだけど、全面に「おめでたい!!」が迸っている絵面なので、(雨乞狐よりも)こっちのほうが不在が堪えたかな~。

仁左衛門さんと孝太郎さんが最後に登場してくださり、仁左衛門さまはご自身の大病から帰ってきたときの舞台が猿若祭だった、あのときのうれしさは忘れられないと語ってくださいました。そのあと、「私が元気に駆けつけられるうちに十九代目勘三郎の襲名を…」と口にされ、客席から大きな拍手。勘九郎さんは「それはまだまだ先の話。それよりも、そのときまでどうぞいつまでもお元気でいてください」と返したわけですけど、これさあ、もちろん仁左衛門様ご自身のお言葉でもあろうが、興行主側としてもそっちにレールをじゃんじゃか引きたい!という思いがむちゃくちゃ乗ってるような気がしたけどネ。勘三郎襲名か…そうかあ…そうかあ~~~~~~~!!!ついにきちゃうのかなあ~~~~~!!!!(オタクの遠吠え)

「積恋雪関扉」。待ってましたァァァァ!!!!!あれは2011年のことじゃった、平成中村座菊五郎さん(当時菊之助さん)の墨染でおやりになって、それがむちゃくちゃ素晴らしくて、それ以来「菊之助さんと勘九郎さんのコンビはいいぞ」ゾンビになりそうになるくらいだったのだ。駄菓子菓子!それっきりまったく「やるかも」みたいな声があがることもなく14年経った!最初はどうしようかな~今年の猿若祭、今倹約中だしな~と思っていたらあーた、とうとう関の扉やるっつーじゃないの!!!しかも七之助さんの墨染に菊五郎さんの良峯少将宗貞!ありがてえ!

今回上演されるのが映画「国宝」の影響なのだとしたら(冒頭で関の扉が出てくるから)、もうそれだけで「国宝」に足向けて寝られないねあたしゃ。ちなみに、この演目が三代目中村勘太郎としては最後の舞台になったはず。あとこの時の公演をご覧になった梅玉さんが、勘九郎襲名披露の際の口上で「あの関の扉はようやった」みたいな話をしてくださったのもよく覚えてます。

しかし不思議なのは、2011年当時もこの演目の筋立てとかよくわかってなかったし、何なら今回イヤホンガイドを借りてみたんだけど、それでもようわからんと言えばようわからん。なのになんでこんなに自分に刺さるのか、って考えたけどたぶんこれ、カッコいいからなんですよね。私に最も刺さる要素はきれいでもかわいいでもなく「カッコいい」。前半と後半でガラッと様相が変わるのもいい。墨染と黒主の踊り、なんか知らんけどすごいものを観てる!感があって、あとふとした一瞬を切り取ったときの絵になるさまがかっこよくて、「あーーーこれずーーっと見てられるやつや…」ってなっちゃう。私の性に合ってるのかな。何気に音楽もすごく好きなんだよなあ。

勘九郎さんの黒主はもちろん、七之助さん、菊五郎さんと素晴らしいバランスで、いやー絶対芝居の相性いいと思うからもっといっぱい一緒にやってほしいよという願望が立て続けに実現してて、ほんとこの調子でお願いしたいです。行く予定してなかったけど四月の歌舞伎座も行こうかな!