「六代目中村勘九郎襲名披露 二月博多座大歌舞伎 夜の部」

  • 俊寛

仁左衛門さまの俊寛は初めて拝見します。いやもう、「俊寛ニガテ」とか言っていたのはどの口か!という感じですよネ…やっぱりこれだけ繰り返し数多く手がけられるというのはそれだけの理由があるからなんだなと。
仁左衛門さま、最初すごく声が細く感じられて、一瞬どきっとしたんですが、瀬尾とのやりとりあたりからはいつもと遜色なくて胸をなで下ろしました。

千鳥のクドキから自分の代わりに千鳥を船に乗せてやってくれと懇願する俊寛、それを聞き入れない瀬尾。ここで俊寛の目がぎろっと動いて、言葉のうえでは懇願を見せるのに目が、顔が、声が、瀬尾を斬るというこころに傾いているのがわかるところがすばらしい。

都では華やかであっただろうに、今この鬼海が島で老いてやせ細った俊寛が、必死で仲間を見送る幕切れの場面。もうちょっと、「未来で」の台詞の前からすでにあーやべえもうすでに感極まりつつあるんですけどどうしたらいいんだ俺!状態だったので、おーい、おーいの声と、波打ち際に立って仲間の声を聴こうとする姿(両手を耳に当てる仕草ひとつで爆涙ですよ…!)、ほんっともういいだけ泣いた。思い切っても凡夫心、の花道のところ、すっぽんが下がっていて海の中に二歩三歩とのまれているように見えるのがなんともまた切ない。あの岩の上で、俊寛が見送っているであろう小さくなっていく船の姿がまざまざと脳裏に浮かぶんだよなあ。見えないものを見せる、それが役者の真骨頂だよなあと改めて感じ入りました。

  • 口上

仕切りは仁左衛門さま。ご兄弟のことを「自分の家族のよう」と仰ってくださってうるっときたよね…。あと印象に残ったのは梅玉さんの口上で、襲名興行ではない一昨年十二月の平成中村座での「関の扉」にふれて下さったのだ!かれ(勘九郎さん)が大曲をやるというので見に行ったのだけど、正直まだ早いんじゃないかなあと思っていたがこれが見事な出来だった、と。わーんうれしい。そして梅玉さんのあの柔らか女殺しボイスにすっかり殺されかかっている今日この頃です。マジで声、良すぎ!

扇雀さんが何度も勘九郎さんのことを「これからが正念場」と仰っていた、その思いにも胸打たれました。あと、今回は亀蔵さんが口上に列座されているのもうれしかったな。

口上の締めに仁左衛門さまが「長口上はお客様にもご迷惑かと存じます。このあとは襲名狂言義経千本桜より渡海屋・大物浦をお目にかけます。お客様にはなにとぞ鷹揚の御見物を」と仰って、その「鷹揚の御見物」という言葉がなんというか、あーすごい、いいなー。いい言葉だなーと思ったんですよね。芝居の感想から離れちゃうけど、今のご時世芝居だけではなくてなんに対してもこの「鷹揚の御見物」の精神が足りなさすぎる気がしてしょうがない。

口上で列座の皆様が上手下手とご覧になっているときに、ひらひらと1枚舞台の天井から紙吹雪が舞い降りてきて、ああ、勘三郎さんからのご挨拶かしらなんて思ったりしました。

  • 義経千本桜 渡海屋・大物浦

自分でも記憶が定かではなかったのですが、この演目前に見たのも博多座だった(笑)そのときも典侍の局は七之助くんだった。「俊寛」もそうなんですが、昨年大河ドラマ平清盛」にずっぱまっていたおかげでこのあたりの人物への思い入れが増しており、物語を引き寄せて見ることができたなーと思いました。

前に見たときは「後半がぐっと面白い」と思ったんですが、今回は前半も負けず劣らず面白かったです。相模五郎と入江丹蔵をやりこめつつ、銀平が一瞬だけ奥にいる義経を意識して見せるところとかいいですよね。七之助くんの女房お柳もよかったなあ。聞かれていない夫の自慢話をつい長口上で…、というあたりしたたかさもかわいらしさもあって好きでした。

勘九郎さんは初役ということで見る方もちょっとどきどき(初日だし)。伊勢音頭のときも思ったけどこの人血みどろ似合うよね…ってそんな感想かYO!いやでもしょうがないです勘ちゃんの血みどろ好きなんですもん。すごく贅沢な感想を言わせてもらえば、こっちを飲み込むような迫力としてはもう一声、という感じでしたが、銀平も知盛も見応えのある芝居でファンとしては大満足です。

しかしそれを受けてくださる義経梅玉さんがやってらっしゃるのだが、いんやもう大きい大きい。そして何度でもいうが声が素敵。素敵すぎる。おかげでまさに胸を借りてという感じの知盛でした。あの義経だったら知盛も浮かばれるよねえ…

橋之助さんが最後の一幕を。南座でもそうでしたよね…ほんとにありがとうございます(深々と礼)(というか、なぜお前が)。そして後見の橋弥さんがどうしようかと思うほどオットコマエであれどうしたらいいんでしょうね。なんか一粒で二度美味しい感じだった。