「おとこたち」

2014年初演のハイバイの傑作、なんとミュージカルに。ユースケ・サンタマリア藤井隆橋本さとし、吉原光夫という豪華な布陣であの「おとこたち」の有為転変をやるというのだから、しかもミュージカルっていうんだから岩井さんはつくづく一筋縄ではいかない。

ミュージカルにはなっていても物語の大筋は変わらず、相変わらず人生のどうしようもなさの煮凝りみたいな場面を手を変え品を変え見せられるわけですが、「歌」というものを挟むことによって陰鬱さが減じていたような気がします。そこを食い足りないと思うか、歌によるパワーがあることで描かれる顛末との落差が効いていると見るか、人によって好みは分かれそうではある。

たとえば鈴木の息子の手品の場面、初演を拝見したときあのいたたまれなさ、もういっそ殺してくれ!と思うような苦しい場面だった記憶がありますが、今回はそこまで抉られなかった。その代わり森田が病床で苦しむ妻に最後まで名前を呼ばれないところとかは、今作の方がより哀しさを感じさせる場面になっていた気がします。

岩井さんの作品では既存曲をこれ以上ないぐらい印象的に使う(「て」の「リバーサイドホテル」、「投げられやすい石」の「喝采」、「おとこたち」の「太陽と埃の中で」など)場面があり、そういう意味では音楽の使い方の勘所を心得てる演出家、というイメージがありますが、今作は岩井さんが「世界は一人」や「なむはむだはむ」などでトライしてきた「作品」と「音楽」の関わりの集大成だなと思いました。バーン!と出てドーン!と歌わせる場面も多かったし、それができるキャストを揃えてますが、同時に音楽劇で培ったスキルもあますところなく投入しているなと。これは個人的な感覚ですけど、岩井さんってどこかに音楽への憧れみたいなものがあるように感じるし、トライしてみたかったことに存分にトライできたのではないかなと。

病気、依存症、信仰、痴呆、不倫、断絶。風俗帰りの男たちの武勇伝のカラオケだったはずがいつしか彼らと自分の前にある線路、線路に置かれた石を見つめる気持ちになってしまう、岩井さんの筆の容赦のなさよ。それなのに、ただつらい気持ちになるだけではないものがあるのが面白いところだし、今作は楽曲の力によって、さらにどっこい生きてるパワーみたいなものも受け取れたところがあった気がします。

吉原さん大原さんコンビの聞かせまっせ~~~!!感あふれた歌のパワーもさりながら、歌とおもしろを見事なバランスで両立させているさとしさんと藤井隆さんの立ち居振る舞い、好きだったな~。若い頃無茶をやらされていた人はここぞというところで無理が効くなと改めて実感させられました。