「Don’t freak out」ナイロン100℃

ナイロン新作!東京ではなんとザ・スズナリ、大阪公演は懐かしの近鉄アート館で公演という、劇団規模からするとミニマムに寄った公演。スズナリでナイロンなんて羨ましい限りですね。近鉄アート館、いろいろ見切れの問題なのか、座席の振り替えが結構あり、そのため客席内の動線がほぼ死んでてえらいことになっていた。

名家の女中部屋に姉妹ふたりで暮らすあめとくも。その女中部屋には地下に通じる入り口があり、その入り口には重しが乗せられ下からは決して開けられないようになっている。その中には「誰か」がいるらしい。ふたりが勤める天房家には何かと口うるさい大奥様がおり、誰もがその顔色を窺っている。あめはどうやら過去に交際した男がおり、その男の名残である石川啄木の一握の砂をいつまでもいつまでも読み返している。

白塗りのメイクが一見、異様さを際立たせているように最初は映るのですが、観ているうちにそうした違和感は消えていき、無念や執念、諦念、そういったあらゆる「念」を塗りこめた表情に見えてくるのが面白い。

狭い空間なんだけど、その狭い空間のなかで地下と女中部屋、そこから見える外の景色、と奥行きがあり、舞台美術も見事だったなと思いました。見えている部分は狭いけど、広さを感じさせるというのかな。映像や照明の巧みさはいわずもがなで、このあたりのスタッフワークはナイロンは本当にべらぼうにレベルが高い。当たり前にすごいことをやってるので普通に飲み込んじゃう。

ケラさんの脚本でいつも感心するのが、女性が見せる執着心の湿度の高さと、反面見切った時のあっけらかんとした明るさ。「フローズン・ビーチ」の頃から女性を描いてあの鮮やかさを出せるのがすごいなと思っていたんですが、今作でもあめもくもも「これでよかったのかどうかわからない」中に身を置きながらどこかカラッとしている。カガミや征太郎に見せていた執念の反作用というのか、この乾いた感じが、物語の中でで起こる事実だけを並べたら悲惨極まりない顛末なのに、それでも暗い気持ちにさせない所以なのかなと思いました。

いやホント、冷静に考えてみたらマジでロクなことになってないよな天房家。大奥様は風呂で死に奥さまは気が触れ、主人は射殺されその兄は発狂、お嬢様は顔に火傷を負いその元カレは地下に閉じ込められ、坊ちゃんは溺死。えっ、書いてて引くほどえらいことになってた。なのに、観ている間はそんな気がしてなかったのが不思議だ。

松永玲子さんと村岡希美さんの姉妹をこれでもかと堪能出来て、それだけでも見に来た甲斐があったと思わせるし、おふたりの力量の確かさがあるから安心して見ていられた気もします。入江さん、相変わらず声が良いし、その声の良さで両極端な役柄をイキイキと演じられててよかった。カガミとクグツって名前もなんだか象徴的。

Don’t Freak outのタイトルどおり、怖がらないで(怖いのは最初だけ)というような、見世物小屋を覗き見る愉しさと心許なさがあり、タイトルも含めて小さい劇場での上演を意図して書かれてることに改めてすごいなと思わされちゃいました。