「百年の秘密」ナイロン100℃

とりあえず、まだ見ようかどうしようか迷っている、という方は是非とも足を運んでください。非常に見応えのある、ナイロン100℃という劇団の力を余すところなく堪能できる作品になっています。ケラさんがいつもツイートされていますが、公演前半は(今回はGWあたり)当日券も余裕をもって取っていただけるということなので、迷わず行けよ、行けばわかるさ!

以下念のため畳みます!


作品の系統としては「わが闇」に通じるものがあるのかなと思いました。とりたててエキセントリックな人物や、説明のつかない事象は出てこない、「どこにでもありうること」だけでドラマが進行していきます。主軸になるのは二人の女性。

しかし今回はそれだけではなくて、時間軸をまさに100年の単位でとらえ、ひとつの家族とその家族が暮らす家を描いたまさに大河ドラマなんですよね。長い長い時間の中の一瞬一瞬を切り取り、拡大して、それを構成していく。時系列通りに物事が語られるわけではなく、観客はときには「このあとの彼ら」を知った状態で舞台で起こることを見守ったりするわけです。登場人物の中は皆それぞれの中に光と影を持ち、それぞれが積み上げた小さな行いが、その後彼ら自身を大きく揺さぶっていく。

心に残るシーンがほんとにたくさんあって、ケラさんがこんなにも真っ正面から美しいシーンを美しく書き、美しく見せたことがあっただろうかと何度も思いましたが、だからこそ最後に彼らのたどる道に、終盤なにが、というわけではなく涙が溢れそうになってしまって参りました。

キャストは揃いも揃って素晴らしいのですが、中でもリエさんとイヌコさんはすごすぎます。演じる役の年齢の幅もさることながら、常に圧倒的な牽引力で舞台をぐんぐん引っ張っていく。ティルダとコナの、友情というひとことではくくれない結びつきを鮮やかにみせてくれていました。ほんとにすごい。年老いた彼女らが最後に交わした言葉を思い出すとそれだけで泣けてきてしまう。ティルダがリザロッテに向かって啖呵をきったときのコナの表情。自分のやったことではなく、秘密にしていたことごめんなさい、という彼女のその台詞が、ふたりの関係性を象徴していたように思えました。

自分だけが一身に父親の関心を受けていることにいたたまれない兄・エースの大倉くんもすごくよかった。きゅんきゅんきたよね…まあ私大抵の場合大倉くんにきゅんきゅんきてるんですけど…彼が連れてくるはすっぱな女の子をやっていたのが水野小論さん*1で、もうほんっとこういう役をやらせて水野さんの右に出るものはいないよマジで。みのすけさんは出番こそ多くないものの、ここぞというところでほかの人にはできない仕事をしてくれるなあ!と感動しきり。そして今回狂言回しでもあるメイドのメアリーをやった長田奈麻さん!!ほんとよかった、もう大絶賛ですよ。

ナイロンといえば、な映像効果も相変わらず抜群で、この台詞も何回も言ってるけどマジで舞台における映像効果という点ではナイロンは他を大きく引き離してもう後続が見えない状態と言っても過言ではないっす。

もちろん、ナイロンという劇団あっての作品ではあるのですが、でもどこか同時代性を切り離しているような作品でもあって、「今じゃなければダメ」というところは薄いんですよね。ある種スタンダードを目指して書かれたというのも頷ける気がします。実際、これを他の人が手がけるのも観てみたい、そう思わされる作品でした。

*1:水野顕子改め。