「Q:A Night at the Kabuki」NODA MAP

2019年の初演から3年ぶりの再演、しかもメインキャスト全員続投というのがすごい。これだけ売れっ子ばかりを揃えているというのに!

いわば完全再演なので、驚きをもって観るというわけではなかったですが、やはり時を経て、かつ大河ドラマが「鎌倉殿の13人」というタイミングもあって、いろんなディティールの解像度は前よりも上がったなという気がします。そしてもちろん、それは現在のロシアを巡る世界情勢も然りなのだった。

これは初演の時の感想にも書いたかもしれないが、この作品の眼目であるところのQUEENの「オペラ座の夜」をモチーフに、という部分については、これらの綺羅星のごとき楽曲たちとこの戯曲ががっつりかみ合ってる、という感じはなく、ショーケース的なものになってしまっているよなあと思う。正直野田さんの舞台での音楽の使い方って天才演出家の唯一の弱点、みたいなとらえ方を私はしているので、今回もその部分は不満といえば不満かもしれない。Love of My Lifeがあれだけ繰り返し使われるのも、この曲がもっとも(というか唯一)御しやすいからだと思うしね。

しかし、3年前の時点から、戦争にフォーカスし、そこに誰もが知っているロミオとジュリエットの「その名をお捨てになって」という名セリフから、名も知られず戦って死んでいく者たちに手を差し伸べるこの戯曲の凄みは今になっていや増すばかりだと思います。今、この瞬間にも、世界ではそうした現実があり、我々はそれを3年前よりもはるかにはっきりと感じとる場所にいる。

私には名前があった。この戯曲はこの一行に辿り着くための長い旅路だと思うし、その最後の肝を託される松たか子のすばらしさたるや。私が観た回で、この最後の手紙で彼女が感極まってるのが見て取れ、でも声の震えをぐっと抑え込んで演じきった、顔を上げた瞬間にほろっとこぼれた涙の美しさよ。これも初演の時の感想で書いたかもしれませんが、私がいまいちばん好きな舞台女優はあなただよ…!ともうほれぼれしてしまいます。

羽野晶紀さんや橋本さとしさんの新感線組のタフさというか、場数が仕事してる…!みたいなプロフェッショナルぶりにも改めて感じ入ったし、純粋再演ならではの醍醐味を堪能させてもらえた観劇でした。