「帰郷」

挟み込みのチラシの中に福岡県人会の案内があって笑いました。福岡強い。入江雅人さんの作・演出で、地元福岡出身の役者が「福岡弁」で演じる舞台。なにしろキャストが「食いつかないではいられない」という顔ぶれを揃えていて、まんまと食いつきました。さらにチラシのイラストは松尾スズキさんだし、いのうえひでのりさんがコメント出してるし、福岡、強い。

以下ネタバレ含みますので福岡公演ご覧になる予定の方は回避でおねがいします!

もとは入江さんの一人芝居のレパートリーとして上演されていたものだそうですが、そちらは未見です。若さと無謀と夢とガサツを煮込んだような青春をすごしたかつての仲間たちとの「あの頃」と「今」を描く芝居ですが、そこに「ゾンビ」という要素をぶっ込んでくるところが面白い。

見ていて思い出したのはゾンビものの傑作「ショーン・オブ・ザ・デッド」、あと近年の作品だと「新感染」もちょっと要素を感じたかな。ゾンビ要素ありとはいえ、そこは元がひとり芝居なのでスプラッタを見せる方に特化しているわけではなく、あくまでも「人類にとってきわめて極端な状況」としてのゾンビなのだなと。

一人芝居のほうは未見なれど、これおそらく、ラストはもともとは2人だったんじゃないですかね。一人芝居だから当然そうなるっていうのもあるけど、個人的にはラストは2人のほうがよりドラマが濃厚になったのではないかって気がした。もとの5人組からひとり抜けていて、その抜けたひとりは終盤のワンシーンで別の存在感を用意されているので、4人で海に向かうあのせつなく、たのしく、そのたのしさのぶんだけかなしいドライブの末に、離脱するひとがいてもよかったのではないかなと。お互いに相手の中に夢を見たことがある、そういう友人に向かって引き金を引くという、文字通り極端な状況だからこそ、あそこはふたりで迎えて欲しい感がありました。

全編ナチュラルボーン福岡弁なひとの喋る福岡弁でのやりとりですが、意味が通じない、ってことはほとんどなかった気がします。オーディション会場でいきあったふたりが待ち時間に交わす「福岡あるある」とでもいうべきやりとりがいちいち鋭角で面白くて、とはいえこのシーンの楽しさは福岡の人がいちばんわかるんだろうなー!って思うと若干くやしかった(笑)このシーン福岡公演でどんな感じになるんだろうな。めっちゃウケるんだろうなあ!

「シゲちゃん」を演じた池田成志さんがいやもうさすがとしかいいようないすばらしさ。うまい、うまいし、うまいだけじゃない稚気もあって、この芝居を支えてらっしゃいました。学生時代の夢からどこか抜けきれないモラトリアム中年みたいな部分も見せつつ、変貌してしまったあとの芝居の確かさに唸りつつで、観た甲斐あったなー!と思わせてくれました。坂田さんも田口さんも間違いのないキャラの立て方で存在感があり、またこの「青春5人組」のなかでひとり尾方さんがちょっと違和感のある佇まいなのがねー、すごくよかったです。岡本麗さんもふくめて、やっぱり思わず食いついちゃうだけのキャスト陣だけあるよね…うまい人しかいない舞台はそれだけで幸せな気持ちになるよ!