「奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜」

  • シアタートラム D列2番
  • 構成・脚本・演出 前川知大

満員御礼!トラムがあんなに立錐の余地もない、というほどに満員なのを初めて見たかもしれない。明日で千秋楽、役者も気持ちよさそうな顔をしてました。そうだろうなあ。自分たちは今、いい仕事に携わっている!ということを日々実感されていたのではないでしょうか。

小泉八雲が書きためた「怪談」5編を現代における謎とからめて再構築。この脚本がまずうなるほどうまい。平行し、寄り添い、最後には交差する。淀みなく、無理がなく、客を飽きさせない構成も見事でした。それぞれの怪談に語り部となるひとりが登場しますが、この配置も絶妙。まったく物語に絡まないときもあれば、どこからか物語かわからないときもある。その緩急、いやー絶賛です。

もうひとつ個人的に激推しなのが美術!土岐研一さんと仰るそうで、パンフのプロフィールを見ると松井るみさんの助手などを務められていたようですが、やーこの人はくるでしょう。これから引っ張りだこになる予感。空間を感じさせ、かといって寒々しくなく、美しいセットでした。芝居が始まって明かりが入った瞬間、ほお、とため息が出ましたね、思わず。

メインの3人もまったく文句なし。仲村トオルさんはほんと舞台の方が輝くような気が。宿世の恋での新三郎よかったなあ。あと、成志さんと小松さんのバトルを前にひとり必死に落ちないようがんばってらした姿がキュートでした(笑)小松和重さん、あーもー、好きです!と唐突に告白したくなる素敵さだった。この舞台で小松さんは般若心経を読むシーンが2度あるのだが、私はその時悟った、唐突に。
坊主も声が命だ!
最初の般若心経聞いたときすっ転びそうになった客席で。なに!これ!い、いい声すぎるんですけどおおおおお!!!!やべえ。いい声爆弾と般若心経のコラボやべえ。お経ってもしかして本来こういう声に読まれることを想定して書かれてるんじゃないの!?(いや違います)だっていつまででも聞いていられるイキオイなんですけどどうしたら・・・!

それにしても小松さん、パンフでも複数の役を演じることに対して自分の武器が少ない、みたいなこと書いてらしたけどそんなことぜんっぜん、全然ないと思うのよ!むしろこの中で圧倒的にカメレオン役者なのって小松さんだと思うよ。あの壊れたレコードのように同じセリフを繰り返すとことかすごすぎる。極端に何かを変えているわけではないのに、姿勢、口調、声音、そういうもので切り替えを感じさせてくれて、観てるほうもスムーズに話に入って行けたと思う。

成志さんは成志さんで、小松さんのカメレオンぶりとはある意味真逆のアプローチで、これがまたきっちり成立しているから舌を巻きます。役の芯をとらえてらっしゃるってこういうことなのかなと。芝居のテンションの手綱を持っていたのは実際のところ成志さんだったように思う。そういえば成志さんも般若心経読むんだよね・・・しかも小松さんとダブルで・・・あのシーンまじ耳の正月すぎた。前半の自由人ぷり、中盤の小松さんいじり*1などなどもあれば、お貞の恋あたりから舞台をぐんぐん引っ張っていたあのテンション。

歌川さんを拝見したのも久しぶりな気がする!やっぱり手堅くうまい〜〜!宿世の恋での語り部ぶりも見事でした。私は劇団イキウメは未見なので、所属の役者さんはおそらく今日初めて拝見した方ばかりなのですが、岩本幸子さんに驚いた。なにがって、あの声だよ!なんという美声。野田秀樹マキノノゾミあたりがほっとかないのではないか、って勝手なこと言ってますけど、それにしてもあの声はいいわ・・・。

あと本当にどうでもいいことを付け加えるなら皆さん素足で演じていらっしゃるので足の裏が見えてひとりで興奮したってことでしょうか(はい変態乙)。

本当にこわいのは人間のこころ、なんてよく言いますけれど、奇異怪怪なおはなしの中から、怪異譚にひそむ人間の情や執念というようなものをくみ取って見せてくれた芝居だと思います。役者陣のクオリティも高く、2時間があっという間の幸福な観劇でした。

*1:「おまえみたいなやつが居るからインフルエンザがはやるんだよ!入れ!風呂に入れ!このパンデミック!」言いたい放題。小松さんもちろん完オチ