デザイナー鈴木成一

先週の日曜日に姉から短いメールが来た。「来週の『情熱大陸』のゲストは鈴木成一さんです。」それで「鈴木成一ってダレ?」なんて、私は言わない。私がそう言わないことを姉ももちろん知っている。私達姉妹にとって「鈴木成一」といえばあの「鈴木成一」さんしかいないからだ。

というわけで、昨日放送された「情熱大陸」、ご覧になりましたでしょうか。鈴木成一といえば今をときめく装丁家、手がける本は毎月50冊!ベストセラーから辞典までなんでもこい、本を売りたいなら鈴木成一に頼めとばかりに、編集者が引きもきらさず押し寄せる人気のデザイナーです。なにしろすごい仕事量だから、いやその人知らないなあと思っていてもきっとあなたの本棚にもあるはず、「装丁 鈴木成一デザイン室」と記されている本が。

私が鈴木成一さんの名前を初めて目にしたのは1988年の9月。第三舞台の「天使は瞳を閉じて」を見に行ってもらった当日パンフの中でだ。私はその役者の写真とスタッフの名前だけが書いてあるだけの二つ折りの紙を、毎日毎日眺めてた。毎日毎日。だって、他にないんだもの、その舞台を感じられるものが。だから覚えてしまったんだな、役者の名前だけでなくてスタッフの名前も。

芝居を見に行くと山のようにもらうチラシの中で、第三舞台のチラシはずば抜けてハイセンスで、だから「宣伝美術 鈴木成一」の文字を意識したのは結構早かったと思う。その頃は他の演劇のチラシもいくつかやってらっしゃったのじゃないかなあ。第三舞台の本によれば鈴木成一さんが第三舞台の宣伝美術として参加したのは1983年の「朝日」から。そう、あの男性ひとりのシルエットを使ったやつです。その後「朝日」はすべてそのモチーフを基調に作られてますよね。あの飛び切り格好いい第三舞台のロゴも鈴木デザイン。第三舞台DVDBOXも、鈴木さんのお仕事です。箱の内側には劇場の写真。これ見たとき、実はちょっと泣いた。第2弾も鈴木さんのデザインなんだろうなあ、楽しみでしょうがない。

昨日の番組を見ていた方はご存じだろうけど、今や泣く出版社も黙る鈴木成一さんが最初に手がけた装丁は「鴻上尚史第一戯曲集 朝日のような夕日をつれて」である。でも、それより前に公演のチラシをやってるんだよな。一体誰がどういう経緯で、まだ大学院生だった鈴木さんに声をかけたんだろう。劇団の誰かのオトモダチだったんだろうか。

こういうことは鴻上さんやサードステージのひとが書くといやったらしく聞こえるかもしれないので私がここで声を大にして代わりに言うけど、鈴木成一を発掘したのは小劇場界なんだぞ、と私が偉いわけでもないのに胸をはりたい気持ちだ。3/16付けfringeの記事にもあるけど、演劇関係者ですごいのは役者や作家ばかりじゃないんだぞー!

鈴木成一さんの仕事場のパソコンの前に、一枚だけはられたチラシはshowcaseの「お父さんの恋」(showcaseももちろん、ずっと鈴木さんが宣伝美術をやってらっしゃいます)。ぜーんぜん意味はないのかもしれないけど、なんだか「ご贔屓」という感じで嬉しかったりして。でもテレビを拝見しているとあまりの忙しさに、お芝居をご覧になるお時間あるのだろうかと心配になったり。本のデザインはすべて一読してからされていたけど、お芝居のフライヤーはどうしてるのかなあ。

鈴木成一さんのおかげで、チラシをもらってもまず宣伝美術をチェックしたり、本の裏表紙をひっくり返したりする癖がついてしまっている私なのでした。