「終わりのない」

面白かった!以下容赦なくネタバレしているのでこれからご覧になる方はお気を付けください!

インターネットによって縮められた世界における「漂流」は量子物理学における多元宇宙、マルチバースにおいて行われる。この構図が出てきたときの私の興奮ったらなかった。それ、エンドゲームで履修済みですー!ってなったし、悠理がお母さんからレクチャーされるシーンも「読める…読めるぞ…!」的興奮があった。いやもちろん量子物理学のことを1ミリも理解してるわけじゃないですよ!でもあの選択によって分岐していくというのはエンドゲームでのバナー博士とエンシェント・ワンの対話とかタイムマシーンについての話のところで丁寧にやってくれてたおかげですんなり飲み込めた。だから現代のオデュッセイアの舞台にここを選んだ前川さんの慧眼というか、目の付け所の鋭さにまず一票という感じ。

あと、やっぱり物語として強固ですね。流離譚が手を変え品を変え語られ続けるのも物語の構造として強固なんだからなんでしょうね。流れ着くたびに違う世界、違うルールが適用されるこわさとおもしろさ、そしてなお強まる「帰りたい」という望郷の念。その物語の牽引力にうまく乗ることができたので、あっという間の2時間でした。

場面設定としてはやっぱり未来世界でのイキウメンズ大量投入の場面が面白かったです。世界がぐるっと変わる転換点でもあるし、またイキウメの面々はそういう場面づくりがうまい。浜田さんはほんとなんでしょうね。普通の青年やってるときは普通の青年なんですけどね。あの無機物感はすごい。かれ(ダン)の最後の展開もよかった。ダンが02と言ってて03が起動したと言っていたのでかれは2代目なのかな。先代も同じようにどこかで暴走したのかな。

帰りたいユーリが「こうであったらいい」という場所を作り上げてしまうシーンもよかったな。作り上げてしまうけど、それが自分の歪みが作り出したものだとわかってしまっているところも。わかって、そして壊してしまうところも。そういえば、あのお父さんとお母さんが離婚について語るところ、理念には心から賛同してるし尊敬してる、かかわり合いたくないだけ、って台詞、なにげにパンチが効いてたな。逆に言うと、「関わりたい」って愛なんだよなって思った。

オデュッセイアが本流である以上、オデュッセウスのポジションである主役への比重が極めて重くなる構成になるのは当然と言えば当然なので、うおーこの人もっと見たいのに、っていう部分は確かにあったんだけど、とはいえ物語の流れにはすごく満足しているので(あの伝えてくれ、おまえのやっていることは無駄じゃない、それを伝えてくれって最後にもう一度語り掛けられるシーンむちゃくちゃぐっときた)、私の中では満足度の方が上回っています。主演の山田裕貴くん、初めて拝見したと思いますがなかなかおもしろかった。ちょっと異物感があって、世界から切り離された、という感覚が伝わってくる感じ。イキウメの面々はもちろん手堅く、このシリーズお馴染みの仲村トオルさんも村岡さんも出番は少ないながらも印象にきっちり残る仕事ぶりでよかったです。