「偽義経冥界歌」新感線

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中島かずきさん新作の新感線公演!が、やっと大阪に!新感線がやっと地元大阪に帰ってきた!!長かったねホント…!

まずネタバレにならない程度の感想を先に書いておくと、髑髏城、メタマクと再演演目に浸かったあとだけに「全然知らない物語」が見られることが自分の中で相当うれしかったらしく、3時間45分と普段の私ならため息しかでない上演時間も「あれっもう終わり?」と温かい気持ちで楽しむことができました。センターの斗真くんは間違いなく主役の系譜のひとで文句なし。あとさとしさんの存在が大きいねやっぱり!

ぐるぐる劇場は大掛かりなセットが組める(固定になるけど)から、いのうえさんのダイナミックな演出向きなのかなって思ってたけど、今回の作品見ていのうえさんて演出はダイナミックだけどセットとしては小回りが利いたほうが良さが出るんだな~というのも思いました。いのうえさんのダイナミックさは装置じゃなくて人の演出の方に出るんだねきっと。

さて以下は具体的な物語の展開にふれるのでまだこれから観る人はご注意だよ~

大雑把なあらすじとしてはよく知られた「義経伝説」を下敷きにしていて、平家全盛の時代、奥州の豪族に義経が匿われていたが、これが手の付けられない乱暴者でとても主君の器じゃない。ひょんなことからウッカリその義経を死に至らしめてしまったため、義経の影武者を仕立てて黄瀬川で頼朝と対面させようとする、という筋書き。一の谷や壇之浦などのよく知られた義経の武勇の数々はアッサリと見せるにとどまり、その「偽義経」をめぐり時代の覇権を狙うものそれぞれの思惑が入り乱れてからが本番、という感じです。

義経冥界歌(にせよしつねめいかいにうたう)、というタイトルがまさにそのまんまで、「歌」をキーにあの世とこの世を行き来する設定なんですよね。だから割と皆、アッサリ死ぬ。なぜなら冥界に行ってからのリターンマッチがあるからだ!なので「えっこの人ここで死んでこのあと出番どうするの!?」って人が何人かいますがそういう人ほど後半どんどこ出張ってくるという。この設定自体は面白かった。気になったのは歌がキーで、「静歌、歌ってくれ」というターンを4回ぐらい繰り返すため、その発動フレーズに客が若干飽きるというきらいはあるなと。うち2回ぐらいはパターンを変えてもよかったかもしれない。とはいえ、歌をキーにするという世界観がある以上、歌わずに済ませるわけにもいかないし、ここは難しいところですね。

冥界に一度行った登場人物たちが白塗りで、かつ衣装もすべてモノトーンで仕上げてくるのがすばらしかった!!遠くから見ていると、ほんとうにそこだけ色が抜け落ちているので、不思議なことにちょっと透明感というか、透けてみえる…?みたいな視覚マジックがあってすごくよかった。メイクも、細かいところまでは見えなかったけど悪役は青い隈取をしていたりかなり歌舞伎味がありました。そしてあれだけ「色」という装飾を落とされても色男ぶりがまったく衰えない生田斗真の男前としてのポテンシャルの高さよ!!

主人公は腕っぷしはやたらと強い竹を割ったような性格の好漢、だけどちょっとバカという、文字通り新感線の主人公の系譜で、「悩まない」がゆえにどんどこ事態を打開していくんだけど、それが「己のやったこと」と初めて向き合って悩み自問自答の箱に閉じ込められる、っていうのもなかなかない展開で、さらにそこからある意味無敵の冥界軍団を打倒するインスピレーションを得るというのも面白かったです。もう1枚カタルシスがあるともっといいけど、主役のかっこよさとラスボスのあくどさが十分カタルシスをくれるので無問題。

そういえばとあるシーンでさとしさんセンターに「無敵の軍団」とかなんとかいってフォーメーション作るところ、あまりといえばあまりのファンサービス(えっ?そうだよね?)に腰が浮きかけたし、ね、寝た子を起こすやつ~~~!!ってなりましたわいな。それと全然関係ないけど冥界の軍団が今の敵を蹴散らす展開に思わず「王の帰還」「バスクリン」と心によぎった指輪者の私の性…。

私は個人的にいのうえ演出の舞台において役者にもっとも必要な素養は「強さ」だと思っていて、役者さんにもそれぞれタイプがあって、うまさ、軽妙さ、カッコよさ、面白さ、いろいろ売りは人それぞれ違うと思うんだけど、芝居に「強さ」がある人が最終的にはこの舞台で生き残るよな、って感覚が強い。歌舞伎役者といのうえ演出のコラボがはまるのは、歌舞伎役者はそういう強い芝居を鍛え上げられてきてるからだと思うんですよ。で、今回のセンターの斗真くんと、最終的にかれに立ちはだかる父親を演じるさとしさんは、その強さがあるんですよね。以前、今回も共演されている山内圭哉さんがさとしさんを評して「プレイスタイルでいったら完全なパワープレイヤーですよね。それが年々パワーアップしていることがまずすごいし、稽古でもとにかく迷わず思い切ってやることで、誰よりも早く正解にたどりつくみたいなところがある」と仰ってたことがあるけど、終盤にいたってどんどんそのパワープレイヤーぶりが炸裂し、主人公を徹底的に追い詰めるところがほんっとたまりませんでした。ラスボスが輝くと作品が輝く…古き言い伝えはまことであった…って気分です。また斗真くんがそれを押し返してくれるからこそのカタルシスですよ。新感線を観た~!って気持ちにさせてくれる。

ニコイチで行動する弁慶と海尊をじゅんさんと圭哉さん。おふたりとも今回話を回していく立場なのでトーンは抑えめ、とはいえ沸かすところはしっかり沸かしてくださる安定の仕事師ぶり。りょうさんと新谷さんの百合百合しい感じもよかったなー。あと!歌舞伎の演目でお前ほど名前が出てくる男はいないと言われている(いない)梶原景時を川原さんがやってて、んもう立ち回る立ち回る!強い強い!川原さんファンには待ってました感ハンパないのでは。粟根さん演じる頼朝を常に守護しているのでお二人のコンビ感も楽しかったです。

1階後方からの観劇でしたが、視界がクリアでほんとに…観やすい…観やすいというだけでもう心が1億点加算してる…って感じでした。もともとフェスティバルホールは西のホールの雄というか、名ホールとして名高いところなんですけど、そういうところを新感線が使わせてもらえるようになったんだなー!という意味でもうれしかったです。公演は今年はこのあと松本と金沢、そして来年東京と福岡ですね。変則的な興行だけに、後半どういうふうに変化するのかも味わってみたいなーと思っております!