「キャプテン・マーベル」

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MCU最新作にして、アベンジャーズ終幕のひとつ前に配置された作品が重要でないわけないやろ~!しかも今作がMCU初登場にして初女性ヒーロー単独作!初尽くし!監督はアンナ・ボーデンとライアン・フレックの共同クレジットです。

いやー良かった。ほんとうに。私はMCUは楽しませて頂いているけど、原作であるアメコミのほうにはほとんど手を出していない人間なので、主人公であるキャロル・ダンヴァースのオリジンも知らないし、「どれぐらい強いか?」も全然知らない。MCUのシリーズ構成で、アベンジャーズ3と4の間にキャプテン・マーベルが入るってわかったとき、ここにきて新ヒーロー…冒険しすぎでは…とかちょっと思ったし、そもそもアベンジャーズにはもう「キャプテン」がいるのに、キャラがかぶらない?とか思ったこともあったんですけど、本当に今過去の私にかける言葉があるとすれば
「素人は黙っとれ―――」(by城島リーダー)
に尽きるわけでね。

MCUのシリーズをまったく見たことのない人(が、この感想を読んで下さってるかわかりませんが)でも、今まで描かれてきた「アベンジャーズ計画」の一歩前のお話だし、過去作を踏まえる必要はまったくないので(むしろここから入ってアイアンマンを初見できる人がちょっと羨ましい)、ぜひこの1作だけでも見てもらいたい。エンタメをジェンダーで語ることで見る人に先入観を与えてしまうのは本意ではないですが、でも誰もが感じたことのある、女性に対する有形無形の抑圧に対して、OKわかった、とりあえず一発ぶん殴らせろと思ったことのあるすべての人に見てもらいたいと思う映画です。

以下は具体的な物語の展開に触れますので、これから見る方は要注意だよ~

クリー人の世界と、それに対する「侵略者」として位置づけられるスクラルとの戦い、クリーの特殊部隊スターフォースのひとりとして作戦行動に参加するヴァース。チームリーダーのヨン・ロッグはヴァースの教官であり、彼女を導くものでもある。だが、ヴァースは経験したはずのない「記憶」を夢に見ていた…。

主人公の「私は一体誰なのか?」を追う前半は記憶のフラッシュバックシーンが多用されることと、今まで知らない世界がどんどこ出てくるので、物語を楽しむというよりも世界観(の設定)をとりこぼさないようにするので必死、という感じがありました。しかしこの作品には大きく2つの主観の転換があって、そこが明かされるところから一気に物語の渦に飲み込まれる快感がありましたね。

ジュード・ロウ演じるヨン・ロッグは登場から一貫して主人公のメンターであるように描かれているんですが、実のところ「感情を制御しろ」「君はまだ未熟だ」という彼の言葉は「導く者」のそれでありつつ、同時に抑圧でもある。ヴァースが自分は「キャロル・ダンヴァース」であったことを思い出し、自分を真に抑圧していたものがなんだったのか、ということに彼女は気がつくわけです。

そしてもうひとつ、「侵略者」スクラルが実は…という展開のうまさ。誰にでもDNAごと擬態できる、その特性だけで見てる側は彼らを心理的に「悪」のポジションにつけてしまうけれど、大国に侵略され居場所を失ったからこそ擬態して潜り込み生きていかざるを得ないのだ、という視点の転換。

そしてそれらのフタが開いた後の、持てるパワーを解放するキャロルの描写のすばらしさ!女にはむりだ、でしゃばるな、人に迷惑をかけるな、お前にはできない、いろんなものに挑戦して、いろんなものに一敗地にまみれてきた今までの彼女の人生、それでも何かを捨てず、自分の力で立ち上がってきたひとりの人間としての彼女のパワーが、それこそがスーパーヒーローがスーパーヒーローたるゆえんなのだと示される展開が、もう、むちゃくちゃアツい!!涙が出るというよりも、その一歩手前の、熱い塊をぐっと飲み込んだような気持ちで胸がいっぱいになりました。あの瞬間の解放感。そして、覚醒したキャロルの圧倒的強さ!!

ヨン・ロッグと最後に対峙する場面、まるで西部劇もかくやでしたが、そこで私に挑戦してみろ、私を超えてみろ、感情を抑制しろ…と言い募るヨン・ロッグがもう、絶妙に卑小で、それをキャロルが有無を言わさず文字通り力でぶっ飛ばし、「証明する必要なんてない」と言い放つところ、最高でしたね。最高でした。私たちは何にも証明する必要なんてないのだ。女は感情的?感情的だとしてそれが何なんだ?うるせえ黙れいっぱつ殴らせろ。

私は自分の性格とか環境からして、女性であるということで受けた抑圧は極めて小さいほうじゃないかと思うんだけど、それでもゼロじゃない。ノーメイクでもだっさいカッコでも恋とか愛とか必要としない人生でも、私たちは何も証明する必要なんてない。そのメッセージはほんとうに、いろんな人の心に深く刺さるんじゃないでしょうか。

ブリー・ラーソンのキャロル、最高だったな~。途中から着てるグランジファッション(ナイン・インチ・ネイルズのTシャツ!)の微妙な板のつかなさというか、パイロット時代のワークシャツがいちばんカッコいいっていうのがまたいいよね。でも覚醒してからのモヒカンスタイルも好き…モヒカンがあんなにカッコよく見えるなんて…!若かりし頃のニック・フューリーとのコンビもむちゃくちゃよかった。今作のフューリーはねこ大好きおじさんの印象がどうしても強いけど、とはいえ視点の柔軟さ、あの頃からのコールソンとの信頼関係とかもきちんと拾っていてよかった。むしろこれを踏まえて今までのシリーズのフューリーを見返したいぐらい。あの左目の顛末はむしろああいうことだからこそ、その後になぜかを聞かれて語る時に盛っちゃうやつやな…という気がしました(あのキャラクターで正直に言うわけない)。

そうそう、90年代インターネット黎明期を過ごした私(たち)にはテクノロジー周りの「あるある」「そうそう」感、使われている音楽も相俟って懐かしさハンパなかったです。

キャロルに自分を取り戻させるきっかけになるのがかつての同志で、そのマリアにもしっかりきっちり見せ場があるのもいい!あのシーン、欧米か!とツッコミされそうなほどイエー!と雄叫びあげたくなっちゃいましたもんね。スクラルのタロスをやってたのがベン・メンデルソーンで、「擬態」として出てくる場面もあるけど、これうまいキャスティングでしたよね。絶対なんかある!と思わせるもん。対してジュード・ロウはやっぱり顔面の説得力というか、まっとうなメンターのようであって、最初はそれを観客も素直に受け入れてるんだけど、それが逆転してからの卑小さがほんと…絶品でしたね。もう文句のつけようがないっす。ねこのグース(トップガンのグースからとってるんだってね!)は、わ~~ねこちゅわん…きゃわ…きゃわたん…きゃ…うおおおおおおお???きゃ、きゃわたん…?ってなるのが面白かった。意外な展開があるとはいえ、ねこはかわいい。これ大事。

インフィニティウォーでもはや全員藁にも縋る、というところに、最後の切り札として現れるキャロル。ほんともう、マジお願いします!って観客も思ってるし、そういう構成にもってくるMCUケヴィン・ファイギがすごいし、これで役者は揃った!エンドゲーム来いやああああ!!!カチコミじゃあああ!!!!みたいな気持ちで映画館を後にできること請け合いです!