- 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール 1階J列16番
- 脚本 佐藤二朗 演出 堤泰之
劇団「ちからわざ」を主宰する佐藤二朗さんがご自身で脚本執筆された作品。主なキャストは宮沢りえさんと佐藤二朗さん、そして物語の中心になる「花」の役をハンディキャップを持つ役者さんが演じており、兵庫公演は佳山明さん。東京公演で見た人のレビューで気になり、チケットをおさえた次第。
チラシのデザインとか、実際にハンディキャップを持つ方をキャスティングしていることとか、あと宮沢りえさんが出てるとか…という周辺情報からなんとなくヒューマンドラマ的な展開を予想していましたが、いやーいい意味で予想を裏切られたなっていう。私、役者としての佐藤二朗さんはそれこそ自転車キンクリートの「休むに似たり」の頃から記憶にありますが、脚本家として拝見するのは初めてかもしれない。人間の暗い部分というか、明るい暗い、どちらか一方の人間なんていなくて、どんな人にも暗さと明るさがマーブル模様のようになっていると思うけど、その通り一遍ではない人物の描き方、見せ方がすごくよかった。
障がい者である花と結婚した和清の底には優性思想が根強くはびこっていて、贖罪と言いながら常に「持たざる者」である花に情けをかけてやっている、ということしか彼のアイデンティティはない。見ているものには、実際に何も持っていないのは和清であり、花は決して持たざる者ではないということがわかるのだけど、和清だけはそれに気づかない。気づけない。気づこうとしない。
ヘルパーの里見と和清の過去の因縁の展開も予想外だったし、里見が超えてはいけない一線を超えることを決意するときの和清があまりにも醜悪で、これを自分で書いて自分で演じる二朗さんすげえな!と思っちゃいました。
りえちゃん演じる里見と佳山さん演じる花のなにげないやりとり、砕けた感じがすごくよかったなあ。花の「おうよ」って口癖すごく好き。「わたし性格わるいですよ」「性格悪い障がい者もいるって花さんに教えてもらいました」「言うねえ山田っち」とか、ああいう感じ。花があのあと、自分の実母の家族と暮らしていくこと、未来に対する不安はあっても、義父の悟の存在と、「やっかいかけます」「おたがいさま」のやりとりに少しだけ心が軽くなるラストも、よかった。花と和清、同情よりも憎しみの方が愛に近いのはそれはそうだと思うけど、でもああして和清に自分の心を踏んでもいいよ、と差し出し続けるのはやっぱり違うものね。
中村佳穂さんの「そのいのち」がこの戯曲の出発点らしいのですが、兵庫公演の千穐楽に中村佳穂さんご本人がお見えになっていて、佐藤二朗さんがご紹介しつつ、「冒頭で鼻歌で歌うのむちゃくちゃ緊張した」と仰っててほっこりしました。あとで思わず楽曲探して聴いちゃったよね。あとカーテンコールでスウィングとして笹野鈴々音さんの紹介があったんですが、久しぶりに拝見したけれど鈴々音さんの文字通り鈴を転がすような美しいお声、ご挨拶の真摯さに思わず聞き入るなど。シリアスな展開でありつつ、ところどころ会話の面白さで笑いもあり、その温度差がまた劇的な効果を生む…という良い循環がある舞台でした。観に行ってよかったです!