「姫が愛したダニ小僧」piper

大王の芝居のタイトルは大抵一癖も二癖もあるんだけど、今度もまた「ダニ小僧」。これでも、英訳したタイトル見ると全然おかしくないのね!「Princess and Danny Boy」だもん。ダニ小僧でダニーボーイ。うまいんだかなんなんだか。歌のダニーボーイとはやっぱり関係あるんでしょうか?

とある老人ホームを訪ねている二人の若者。どうやら男の方の祖母がここでなくなり、遺品を引き取りに来たらしい。落ち込む男の前に車椅子に乗ったおばあさんが現れ、二人を「船長と洗濯娘」だと言い自分はスミレ姫だと言い張る。ボケたお祖母さんの戯言として片づけようとする男だが、姫の「ダニ小僧」探しに振り回されるうちに目の前に次々と不思議な出来事が現れだす。
「日常」というもののなかにひそんでいる、いつもは見えていないだけ(かもしれない)のものが姿を現して、別の世界へひととき連れて行ってくれる。これぞファンタジーというようなお話。

後藤さんのことですから、絶対に手軽に感動なんてさせてくれないし決めるシーンは茶化すし、だけどラストシーンでダニ小僧が客席に向かって「これだけ沢山の人が居る中で、たったひとつだけ願いが叶う」なんていう風に持ってくるのは悪魔的なうまさだとしか思えない。あのシーン、みんな何願いました?私はね、素直に願いましたよ。「ダニ小僧と姫が再会できますように」って。それがちゃんと目の前に現れてくるとねえ、嬉しいものなのよ。まるで、自分の願い事が叶ったような気がしちゃうのよ。すごく幸せで、泣きたくなっちゃったりするのよ、これが。これをうまいと言わずして何という。

うまいと言えばもうひとつ、劇中の「ダニ小僧」のお話の外枠に、自殺するためにとある廃墟ビルに来てしまう男の話があるんだけど、これがまた実に効果的。二人の会話もそれだけで充分おかしいんだけど、「きっと有名人なんだろ!サインもらおう」「今から死ぬのに?」とか、急にふっと現実の冷たさに触れさせるような展開がすごく印象に残る。舞台の上でははちゃめちゃファンタジーが展開しているんだけど、それを観客と地続きのものにしてくれていたなあと思う。

ダークネスなエンディングを持ってくることが多い大王にして、ちょっとないぐらいのハッピーエンドっぷりが逆に新鮮でよかった。

典型的悪役を楽しげに演じていた松村武さんと大路恵美さんのイッちゃったキャラぶりが際だってよかった。山内さんはねえ〜、おいしい役だよね〜(笑)とか言いながら、ああ、やっぱぴかっこいい!とか思ってしまったわけですけれども。佐藤康恵ちゃん、この中ではやっぱりちょっと苦しさが際だつか。舞台を引っ張っていくシーンになると弱さが露呈する感じ。高杉さんの役も、もうちょっと面白くできたかなあと思った。芋宮殿MITSURUには言うことありません、はい。大好きですあのキャラ。腹筋さんのマイムをすっかり「ツッコミどころ」というポジションに置いていたのは良かった。あれはあのマイムを楽しむものではなく、あの後のツッコミ含めて一芸だ!と私は勝手に思ってますんで、ええ。松永女史の出番が少なかったのが残念。ユースケさん、振り回されキャラも自然でよいよい。贅沢を言えば最後一暴れしてもよかったかな?とは思いますけれども。

カーテンコールではユースケさんが本来の(?)姿に戻ってテンション高く客席を煽り、総立ち、大合唱でエンディング。非常に幸せ感たっぷりで、楽しかったです。