- 新神戸オリエンタル劇場 1階L列22番
- 構成・演出 小林賢太郎
バレまくりです!
よくよく考えてみれば、2年ぶりの本公演なのだった。私がラーメンズを見始めてから、こんなに本公演の間隔が開いたことはなかったと思うけど、間にKKPとかソロライブとかがあったので久しぶりな感じは正直してなかった。でも始まった瞬間に「あ、これ久しぶりだ」って体が思い出したような。
「椿」から一応小林賢太郎ワークスはほぼ漏れなく拝見しているけれども、この「TEXT」はそんな中でもかなり上位に来る感じです。まさに「TEXT」。言葉というものを分解し、組み立て、時には放り投げる。自由自在。
とりあえず勝手に決めた仮タイトル。
「五十音」「ダイアローグ・モノローグ」「不透明人間」「ことば条例」「ジョッキー」「金村と常盤」
五十音の頭の音で話を繋げていく1本目。椿のドラマチックカウントを思い出させますね。すごく練られていると思うのに、後半なんだか勢いにのまれていく感じがするのが面白い。二本目は二人がモノローグで語っているようでありながら、言葉が重なったり意味だけが重なったり逆に音だけが重なったりする。最後の携帯電話とカレーパーティのやつは、もっとうまく重なっていくと気持ちいいんだろうけどなあ、というもどかしさも若干あり。「ライス」「ナン」のところ、客に意味が浸透するまで小林さんが若干待つような感じで、そういうのはホントはないほうがいいよね(どう?みたいな顔も可愛いけど)。これ二つ重なるんだろうな、と思いながらなんだかシベリア少女鉄道みたいだわ、とか思ったり(笑)
「詭弁」というやつを逆手にとったかのような3本目。途中で「ペットボトルがあるだろ?」と小林さんが説明するところで、いつもは最前のお客さんから借りるのかしら?今日は客席を見渡して持ってる人がいなかったようで、「あるだろ?」と実際にはないまま話をしたのだが、そこで片桐さんが「ない」(笑)。小林さんもう1回「あるだろ?」「ない」。二人ともにやにや笑いながら小林さん、だーからー、あるとするだろ?つったら、片桐さん「うん、ない」(爆)見事だ!(笑)小林さんが思わず爆笑して片桐さんの頭をはたいてしばし突っ伏して笑っておられました。かばええーーー。
3本目のコントでやけに出してくる条例の名前が具体的だなあ、と思ったら次でキタ(笑)「短歌」「ハリウッド」「うやうや」「ミュージカル」どれも面白かったです。ミュージカルのあの、実際にはそんなにないんだけど、「ありそう」な絵面を描くのがうまいこと!5本目はタカシと父さん+ギリジン風味。ここで片桐さんが手に持っているジョッキーの鞭が、激しく振り回すところで二つに分裂してしまって(というか、カバーが取れて分解したって感じ)激しく動揺する片桐さん。*1もちろんコントのまま動揺しているんですが「どうしよう〜どうしよう〜」「怒られる〜」「今日の夜どうしよう〜」「汗びっしょりだよ!サウナスーツだよ」「いやな汗かいたよ」となかなかダメージから立ち直れず。どうにかカバーをもう一度入れようとするんだけど、その入れようとする仕草からなにか思いついたのか、突然座頭市の真似をする仁さんに思わず馬も爆笑。いやーグダグダだったけどこの形のコントはそれもありか、ってことで!
ラストのタイトルをそのままにしなかったのはあまりにもネタばれかな、と思ったので。というわけで、ここからさらにすごくネタばれますので畳みます。
「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだといわれたりしたこのぼんやりとした白いものがほんとうはなんでできているかご存知ですか」
これは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の書き出しです。他の多くの人と同じに、私もこのお話を愛して育ちました。活版所の描写が出てきたとき、そして「祭り」という単語が聞こえたとき、さらに「牛乳」が止めでした。ああこれは、銀河鉄道の夜じゃないか。金村はカンパネルラで、常盤はジョバンニじゃないか。
二人でいるようなのに、一人しかいない、一人しかいないのに、誰かといたような気持ち。原作ではジョバンニのいう「ぼくたちいつまでもいっしょに行こう」という台詞を、金村に言わせたりするあたりに、いやもう銀鉄をモチーフでくるあたりからしてもう相当あざといっちゃあざといんだけど、でもそんなあざとさに鼻白む前に、この小林賢太郎特有のリリシズム全開の空気感に私は完全にしてやられてしまったのでした。
金村のいない列車から窓を開けて大きく叫ぶところまであまりにもあまりで、そして冒頭につながる「(空をみあげて)牛乳みたいだな!」というところで、私の涙腺は完全に決壊してしまった。いや違う、もっと前、「ひとり」の車内でしりとりをする常盤の背中が、「背中合わせ」のところで軽く揺れたその姿を見たときから、私は完全に泣きっぱなしでした。
どのコントにも、言葉のもつおかしさ、面白さ、言葉のうえでだけ積み重ねられる不思議さ、みたいなものがあって、かと思えば圧倒的な勢いで客を巻き込んでいく力技もあって、やっぱりラーメンズはラーメンズなんだなあと思ったし、小林賢太郎という圧倒的なセンスの持ち主が書いた脚本があって、それをちゃんと立ち上げてそしてなんだか不思議な世界へ案内してくれる片桐仁という役者がいて、だからこそのラーメンズなんだなあというのを2年ぶりに実感させてもらえた本公演でした。
*1:カーテンコールの時にちらっと仰っていたのだが、分解した先がお客さんの方に飛ばなくてよかった、という意味でもすごくひやっとしたそうだ。確かに飛んできてもおかしくない勢いではあった