「シンベリン」

マイラブ勝村さんが出るのにチケットを押さえていなかったのはあれだ、シンベリンでしかも勝村さんの役がクロートンだったからっていうことでそうかあの役か…うーむ…と二の足を踏んでしまったんですよねい。シンベリンは「子どものためのシェイクスピアシリーズ」で拝見したことがあって、その作品自体は楽しかったんですけど、やっぱりあんまり上演されてないだけのことはあるなあ、と思ったんですよ。

しかし東京公演をご覧になった方がいやー勝村さんスゴイねもってくね、と口々に仰るので、えっえっそうなの、あっちょうどシレラギと同じ時に大阪でやってる!と慌ててチケットを探し出したという次第。

開演10分前ぐらいから、舞台にセットされた鏡前に続々と出演者たちが集まってくるという趣向。窪塚くんはなぜか鼻にティッシュをつっこんで出てくる(笑)そうそう、窪塚くんの鏡前にはナイトメア・ビフォア・クリスマスのフィギュアがありました。皆それぞれにセリフをさらったりボードゲームをしたりと本番前の風情。鳳蘭さん、大竹しのぶさんに続いて上手から勝村さん、下手から阿部寛さんがご登場。阿部さんが登場した瞬間客席から「ほおっ…」という、歓声ともため息ともつかぬ声がもれましたよ…わかる。あまりにも背が高いうえにあまりにも異次元に二枚目にすぎる。しかしそんな阿部さんを横目で見つつ私は上手から下手方向に歩いてくる勝村さんにクギヅケなのであった。共演者の皆さんと挨拶し(軽いハグなども交えつつ)談笑に加わる勝村さん。ひとりサッカー用のウインドブレーカーをお召しの勝村さん。嗚呼…なんて男前!(唐突)考えてみれば「ああ荒野」を見れていないので舞台の勝村さんを拝見するのが久しぶりだった!うわあ!よかったチケット取って!勝村祭りだよと推してくださったみなさんのおかげ!(開演前から感無量)

開演ベルと同時に出演者が舞台前に一列に並び、チョンが入って一斉にキャストの上着が取り払われ(引抜きっぽく演出してる感じね)、衣装を着込んだキャストがそこで一礼。

蜷川さんにしては珍しく通路・鏡・搬入口というお馴染みの手法を使わず、高さのあるパネルを組み合わせて場面を展開させていってました。人物相関図としてはけっこうややこしいのに、見ていれば自然に頭にはいってくる交通整理の巧みさはさすがです。イタリアのシーンではローマ建国伝説である狼の乳を飲むロムルスとレムス*1の像がででーーんと鎮座するのも効果的(っていうかよくできてますよねアレ)。

話としてはなんというか、そうそうだから私尻込みしたんだった…ってことも思いだすところもあったのですが(だっていいたかないけどみんな迂闊すぎる!)(個人的にこういう誤解が誤解を…みたいな展開が苦手なんですよ、ね…)、しかしそこはそれ展開のスピーディさとその戯曲にがっつり乗っかってさらに余力のある実力派キャストの皆さまに大いに助けられたなーと思いましたし、最後にすべての誤解が解けて大団円という展開、なかでもシンベリンの大団円は中でも強引にもほどがある大団円ぶりですが、そこを決して重厚にではなく、大真面目だけどだからこそ面白い、というように見せてくれていたのがすごくよかったです。最後の一本松もですが、戦闘シーンのバックに津波警報の音をかぶせてくるあたり、常に「今」との連携をみせてくる蜷川さんらしいなとも思いました。

勝村さんのやったクロートンはまっとうにやればあまりしどころのない役のようにも思うんですが、どうにも憎めず、けれど「あっこいつダメ」感は最初から最後までぷんぷんと匂わせるという絶妙なキャラクターっぷりが見事でした。というか、もう後半は出てきただけで観客がある種の期待感に満ちてくるっていうあたり、ほんとさすがだなあ!と感服。「あのひとのぉおおお!!いぃいちばんそまつなぁぁぁ!!」もう爆笑。

その母親である王妃役の鳳蘭さんの絵にかいたような悪女ぶり、もう大好きですよ…っていうか鳳蘭さんのあまりの若さにたじろぐよ私は!もう一輪の悪の華であるところのヤーキモーは窪塚さんで、このメンツに挟まれるとちょっと芝居のサイズが小さいかなあという気はしましたが、イタリア伊達男の雰囲気はとてもよく、まわりに馴染まない空気感もしっくりきていたと思います。主演のおふたりは舞台上の役柄は迂闊にすぎるけれどそれをカバーしてあまりある魅力をふんだんにふりまいてらっしゃいました。阿部さんほんと見れば見るほど二枚目*2。あの黒のロングコートのお似合いなことったら!そして最終盤の「実は」「実は」合戦において、大真面目なのにセリフひとつひとつが爆笑の引き金になるタイトルロール、シンベリン王をやった吉田鋼太郎さん、最高です。あんなに重厚なのにあんなにおかしい。すばらしいなもう。

カーテンコールでは最後に阿部さんと大竹さん、窪塚くんと勝村さんが4人で挨拶。そのあとハケようとした勝村さんが大竹さんに衣装のフード引っ張って止められて、なぜかひとり舞台センターで恭しく膝折って一礼、っていう、あなた主役じゃないでしょ的展開に大笑いしましたが、観客もなんとなく「殊勲賞」的な拍手をたくさん贈ってくださっててなぜか誇らしい気持ちのわたくしなのでした(笑)

*1:そういえばロムルスとレムスもシンベリンの王子たちと同じく一種の貴種流離譚ですな。まあこっちは兄弟喧嘩別れするわけですけども

*2:しかし、私阿部寛さんを舞台で拝見したのいつ以来なんだろう…まさか熱海から見ていなかったのか…?