「平成中村座 五月大歌舞伎 昼の部」

  • 十種香

初見ですー。勘九郎さんが濡衣でひさびさの女形。私もともと勘九郎さんの女形好きなんですが(だって最初に彼をイイナと思ったの野崎村のお光だもの)、この襲名からの連続公演によるものなのかそれとも経年による変化なのか、声がだいぶハスキーに寄ってしまっていて個人的にはちと残念でございました…。
しかしこの八重垣姫は最後の最後までジェットコースターのような感情の大波で、こりゃー難しいお役だなーと思ったり。最後これから!というところで終わるので帰ってから全体のあらすじを確かめてしまいましたん。

  • 弥生の花浅草祭

勘九郎さんと染五郎さんが四変化、あの手この手で踊って踊って踊りまくるというまるで私のために!あるような!実はこの五月の昼のチケット紆余曲折あって取れているはずのものが取れていないという事態が判明し顔面蒼白になったのち、楽日のあとに昼のみ追加公演がきまってじゃあ折角だから大楽に!とそちらのチケットを押さえたはいいが諦め悪く戻りのチケットを毎日マツタケで探していたっていう経緯があったのですよ!で!12日の昼が直前に戻ってたのよ!よくがんばったわたし!(前置き長い)
っていうか染五郎さん、筋書みたら平成中村座初参加なんだねえ。
まさに花形!といった佇まいのお二人が、始終イキイキと、しかしどこかしらに火花のようなものも散らしながら踊る姿、あーもう時よ止まれ!と思うほどに幸せでござった…勘九郎さんの踊りはもちろん大好きなんだけど、染五郎さんの踊りもぱっと目を惹く華やかさがあって、みんな違ってみんないいってこのことか、と場違いな実感を噛みしめておった次第です。四変化の中ではやはり三社祭がもっとも見応えがありましたが、そのあとの石橋、獅子になってからの二人の出といい、毛振りといい、なんつーか二人の意地とプライドの張り合いを見たというか、ほんとに舞台のうえに火花が散っているかのようでそれはそれは興奮しました。はー、いいもの見た!

  • め組の喧嘩

これも初見です!いやーもう。いやーもう。今日14日だからあと2週間ぐらいやってるんですかね、わりと切符の戻りもあるし当日券も出ているようなので、都合がつく方は観に行ったほうがいい!と思う!血湧き肉躍るってこういうことなのか、火事と喧嘩は江戸の花ってこういうことなのか、粋ってこれか、侠気ってこれか、ってことを手に取るようにみせてくれる芝居です。ほんっとに興奮した!!!

鳶の若い衆と力士たちのいざこざの発端(勘九郎さんの藤松が!もう!しぬほど男前でしんだ!)や、そのあとの芝居前の場での丁々発止もいいんだけど、個人的にぐっときまくったのが三幕の焚出し喜三郎内の場と、それに続く辰五郎内の場ですよ。これ、喜三郎内は省略されることが多いらしいのだけど、もったいないー、ぜひみんなもっとやってくれ、ください、と思いました。夏祭でも団七内が大好きな私ですよってに、こういった男がぐっと心情をこらえて語るやりとり、みたいなものが異常に好きなんですねきっと。芝居小屋でのいざこざから、もう後に引けないという気持ちを抱えて挨拶にくる辰五郎。で、喜三郎は(八ツ山下の場で煙草入れを拾っているというのもあり)ちょっと遠いところに行く、頼まれた仕事があるんで、と言い張る辰五郎の胸の裡をすっかりお見通しなわけですよ。ここで喜三郎がほかのものならいざ知らず、喧嘩といえば真っ先に駆けだしていくようなおまえのことだからおれは心配しているんだよ、と諭すわけです。これが堪える。ここの勘三郎さんの芝居の素晴らしさたるや!そして辰五郎を諭しながらも、最後には「骨は拾ってやる」という喜三郎。ぐっと眉間にちからのはいった勘三郎さんの表情を見て、ああ泣いてしまいそう、私が!っていうか泣く!と感情移入しまくり。最後に杯を交わす場面での、これが別れとなるかもしれない(でもそれは口に出さない)男同士のやりとり。これにぐっとこない女はいないよ!

この喜三郎内は、煙草入れの一件を明かすまで(いや明かしてからも、か)いわばサブテキストの応酬となってるんですよね。字面通りのやりとりだけではなく、そこに隠された心情が匂い立ってくるっていう。

そのあとの辰五郎内では、まず花道の七三でふっと立ち止まり、酔っぱらったふりをして部屋に帰ってくる辰五郎がもうからぐっとくるんですが、お仲たちの言葉を聞いてもじっと自分の気持ちを押し隠すんですよ辰五郎は。そこであの酔い覚めの水でしょ。又八が飲んで、最初は断ったお仲も「又が飲むなら」ってひとくち飲んで、辰五郎が「おめえ飲んだな」。別れの盃なんだよねこれ彼にとっては。茶碗をみてぐっと呷るところ、ほんとたまんなかったな。

ここまで見ている観客(も、辰五郎も)気持ちを引っ張って引っ張ってきているので、そこからようやく彼の本心が明かされるところの気持ちよさがハンパないのですよ。畳みかけるとはあのことか、こっちのテンションも三段飛ばしぐらいあがっているんだけど多分役者のテンションもそれぐらいあがってるんだと思うなあれ!

ずらりと並んで辰五郎の到着を待つ鳶たち(藤松の勘九郎さんがしぬほど男前で、ってこれさっきも言いましたね)、待ってましたとばかりに現れる辰五郎。水をふくんで足に吹きかけるんだけど、もう段違いで勘三郎さんの仕草がかっこいい、あれなんなの!頭を垂れる鳶たちに塩を撒いて、そして辰五郎が言う。「いいのか!」「へい」「いいんだな!」「へい!」皿を投げつけ一言「やっつけろぃ!」

ギャーーー!

って思わず知らず声に出ましたわたし。ええ。いや小声ではあったと思いますが。ぎゃっ!ぐらいは確実に言った。押さえきれなかったかっこよすぎて。かっこ、よす、ぎて…!あれ見て燃えない男は男じゃないし女は女じゃないです!じゃあなんだ!知らん!金なら返せん!

鳶と力士が舞台上だけでなく客席通路も使っての大立ち回り、皆さん仰ってると思いますが纏を持った勘九郎さんが梯子段を手も使わずに一瞬で登り切るところとかしぬほど男前でした。もうこれ言うの三回目ぐらいですけど。勘九郎さん屋根の上からこれでもか!と瓦投げてたなあ(笑)

最後は喜三郎が寺社奉行町奉行、それぞれの法被を纏って両成敗(この割って入り方が斬新すぎて驚いたなんてもんじゃない、それにつけても梅玉さんのかっこよさたるや!)。いやいやもう、この無駄な感想の長さからお察し頂けるかと思いますがものっそいテンションあがりました。28日昼の追加公演を押さえてよかったと芝居が終わった瞬間に思いましたよ。

やっぱり、勘三郎さんが芯になって舞台を引っ張るってこういうことなんだなあっていうのを改めて感じましたね。そうだよ、これが勘三郎さんだよ、っていう瞬間が何度もあった。嬉しかったなあ。私も嬉しかったけど、たぶん座組の人たちはもっともっと嬉しいんだろうなあ。そういうパワーが舞台の上から溢れ出ているような芝居でしたよ。ほんと、必見です!