「平成中村座 十一月大歌舞伎 夜の部」

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十月に引き続き、十一月は平成中村座での勘三郎さん追善興行。「弥栄芝居賑」。一座打ち揃ってご挨拶。劇中で口上もありました。勘太郎くん長三郎くんも勘九郎さんと一緒に出てきてご挨拶したんだけど、正座するときに勘太郎くんがお父さんとまったく同じことをしようとするんですよ、お父さんが扇子を持ち替えたら持ち替える、袴を直したら自分も直す、いやもう顔から「おーわんだいすき」オーラが出てて見てて照れた。わしが。花道での女伊達と男伊達のツラネもよかったです、花道見てそれを見ている勘九郎さんを見て花道見て勘九郎さん見て…を繰り返していたので首が痛い。あと児太郎さん、なんか一気に貫禄が備わってきた。器がぐんぐん大きくなってる感。

このあとの演出について以下ネタバレしますのでまだ見てない!という方はここまで!

で、そのあと場内暗くなり、勘三郎さんの映像が流れて、最後は揚幕が開いて照明が花道を照らして、舞台がパッと明るくなり…という趣向がありました。大阪の平成中村座のときも勘三郎さんの映像を映すのやりましたね(こういう形ではなかったが)。私は基本的に舞台の上で映像を使用するということに必要以上に点が辛いので、やっぱりどうにもどうなのかなあこれは、という感じが否めず。見せる方の気持ちを慮らないわけではないが、しかしどうしてもやりたいならちゃんとやれ、とも思うのであった。最後の演出につなげるなら、映像そのものにも演出が、つまるところ編集が必要でしょうと思うのだ。勘三郎さんの花道を使った芝居だけをつなげるとか、何らかの工夫がほしい。芝居にも間が重要なように、それを客に見せるのなら映像にだってリズムとテンポがあってしかるべきだと思う。俊寛の「未来で」、鼠小僧の「大事なのは、いつも誰かが見ていてくれてる、そう思う心だ」、研辰の「生きてえ生きてえ、死にたくねえ」、そりゃ、泣きます、泣きますが、それは家でビデオを見てたって出る涙なので、私が劇場に求めているものはそういうものではないのだなあという。

舞鶴五條橋」。初見です!十七世勘三郎のために作られた舞踊作品だそう。なんと、勘太郎くんが牛若丸で文字通りの主役、出ずっぱり、いやはやすごいね。第三場が五條橋で勘九郎さんの弁慶が出てくるんだけど、そこでのふたりの踊り、勘太郎くんはまさに「ひたむき」って言葉を具現化したような必死さ、健気さがあふれ出てたし、なによりも「子どもがやってみてる」というのではなく「一人の役者としてやるべきことをやる」ターンにあの歳で入ってるのがすげえなと心底思いました。勘九郎さんの弁慶、最初から最後までカッコイイしか詰まってない幕の内弁当もかくやであって、またもや「これ永遠に見てられるな…」っていう例の病気発動。花道での引っ込み、すわ飛び六方か!と思わせてからの展開になに~~~この寸止め海峡なに~~~~どういうつもり~~~勘九郎さん「勧進帳やる気ない」とか扇雀さんに言ったらしいけどあなたそんなこと言っといてこれってもう包囲網待ったなしですよわかってる~~~~???と言いたい私がいました。

仮名手本忠臣蔵」七段目、祇園一力茶屋の場。芝翫さんの由良之助、勘九郎さんの平右衛門、七之助さんのおかる。いやはやとってもよかったです!!七段目は芝居としても好きだし、勘九郎さん七之助さんご兄弟の持ち味が存分に発揮されたいい芝居がつまっていて本当に見ごたえありました!

ことにおかるの七之助さんがすばらしくて、由良之助とのじゃらつきでも、そのあとの平右衛門とのやりとりでも、どこかまだ根に純なところのある「むすめ」の気配が感じられて、兄にふるさとの両親と、自分の夫の様子を尋ねるところ、まさに「何にも知らぬ」そのさまに胸が締め付けられるし、いよいよ勘平の身に起きたことを知ったその瞬間の、あの音のない、ぜんぶが彼女のからだから抜け落ちていくような衝撃が見事に舞台のうえで表現されていて、あの瞬間の芝居だけでも涙が出るほどでした。

勘九郎さんの平右衛門、一本気なところだったり妹思いなところだったり、あの身体能力の高さが古典の型の中でしっかり躍動していて、どの場面も見ていて楽しさしかなかったです。自分の命を担保にするような話の展開なのに、兄妹のあたたかさとか可愛らしさが心に残るし、だからこそふたりの決意に泣ける。勘九郎さんがおかるに「わりゃ、なんにもしらねえな」と語る場面で、このひとの芝居味がいっぱいつまったこの台詞、これが聞きたかったんだよなー!って思いました。

芝翫さんの由良之助もよかったなー、やっぱりこの七段目は六段目からたまったフラストレーションが最後の由良之助のせりふで一気に胸が晴れるところなので、そういう「引き受けてくれる」大きさが感じられました。福之助さんの力弥も好演でしたよね。

今年の二月に歌舞伎座仁左衛門さんと玉三郎さんの七段目、おかる平右衛門を観たので、なんというか絶対的正解のあと、ご兄弟のを見たらどういうふうに感じるのかな?って思っていたところもあるんですけど、不思議なほどそういうことを考えず、素直におふたりの芝居を堪能できて、それが本当に心の底から楽しくて、充実した観劇でした。あと、これは二月のときにもおんなじこと思ったんですけど、仮名手本忠臣蔵の通しが見たい。今考えうるベストメンバーですこれが!というやつで、通しを見たい。松竹さんお願いします!